『SUMMER OF 85』『すべてうまくいきますように』など話題作が続くフランソワ・オゾン監督。本作では、敬愛するファスビンダー監督の名作『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』を現代的な視点に加えてリメイクした『苦い涙』が6月2日(金)より、全国順次公開される。
1972年の西ドイツ・ケルン。著名な映画監督ピーター・フォン・カントはオフィスを兼ねたアパルトマンで暮らし、若い助手のカールをしもべのように扱っている。ある日、恋人に捨てられ、ひどく落ち込んでるピーターを心配し、親友の大女優シドニーが訪ねてきた。するとピーターはシドニーに紹介された俳優志望の美青年アミールに心を奪われ、彼をキャスティングのカメラテストに招いたのちに、自宅に住まわせることにする。その9ヵ月後、ピーターの公私にわたる尽力によって、アミールは映画界の新星として注目を集めていた。しかし情熱的に結ばれたはずのふたりの関係性は一変し、奔放な言動を繰り返すアミールに弄ばれたピーターは、ずたずたに胸を引き裂かれていくのだった……。
オゾン監督は恋愛にとどまらない人間関係や芸術における支配と隷属のパワーバランスを鋭く考察し、観る者に「人を愛するということとは何なのか」という根源的な問いを投げかける。また、暗く憂鬱なムードに覆われていたファスビンダーのオリジナル版とは異なり、風刺やユーモアをふんだんに織り交ぜた語り口は驚くほど軽やか。カラフルな壁紙に写真や鏡をあしらったアパルトマンの装飾にも目を奪われる。
主人公ピーターを演じるのは、フランス屈指の人気実力派俳優ドゥニ・メノーシェ。また、映画界の生けるレジェンドというべき大物女優ふたりの出演も見ものだ。『アデルの恋の物語』(75)『カミーユ・クローデル』(88)『王妃マルゴ』(94)のイザベル・アジャーニが、ピーターの恩人でもあるハリウッド帰りのスター女優シドニーに扮し、ゴージャスなまでに優雅な存在感を披露。
ファスビンダーのミューズであり、オリジナル版で準主役を演じたハンナ・シグラが、ピーターの母親に役どころを変えて登場する。ピーターを虜にする美男子アミール役の新人ハリル・ガルビア、従順な助手カール役のステファン・クレポンという若手が、ベテラン俳優の中で輝いている。
劇中でアジャーニ、シグラが歌声を聞かせ、「孤独の太陽」(ウォーカー・ブラザーズ)などの1960~70年代のヒットソングをちりばめた音楽のセンスも秀逸。ちなみにアート映画の愛好家で、ファスビンダー好きで知られる鬼才、ジョン・ウォーターズ監督は、毎年発表している私的な映画ベストテンの2022年版にて、本作を「圧倒的なベストワン」に選出している。
『苦い涙』:6月2日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:セテラ・インターナショナル PG12
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