太宰治が1941(昭和16)年に初めて書き下ろした長編小説『新ハムレット』は、シェイクスピアの四大悲劇に数えられる『ハムレット』を語り直した戯曲風の小説で、『ハムレット』の近代的翻訳とも、またパロディとも言われている。『ハムレット』と設定は同じながら、太宰のレンズを通すことで、ハムレットや彼を取り巻く人物たちがこじらせる悩みや関係性が身近に感じられ、日本人が共感できる作品とも評されている。また、ラストを含め、オリジナルとは違う解釈も随所に見られる。その舞台公演が、6月6日、東京PARCO劇場にて幕を開けた。
登場するのは全部で7人。主役のハムレットには、『ラ・カージュ・オ・フォール』『エリザベート』『銀河鉄道の夜2020』『プロデューサーズ』『四月は君の嘘』『血の婚礼』『マチルダ』など、2.5次元ミュージカルを皮切りにグランドミュージカル、ストレートプレイまで、意欲的な舞台での活躍も目覚ましい木村達成。ハムレットを慕うオフヰリヤには、AKB48卒業後は、俳優として数々のドラマや映画で確かなキャリアを積み上げている島崎遥香。ハムレットの学友ホレーショーには、確かな演技力と強烈な存在感を併せ持つ加藤諒。侍従長ポローニヤスの息子でオフヰリヤの兄レヤチーズには、文学座の所属で、文学座公演以外の舞台、映像作品でも幅広く出演している駒井健介。
ベテラン勢を紹介すると、侍従長ポローニヤスには、縦横無尽に舞台上を立ち廻り、硬軟自在な超・演技を見させてくれる現代の舞台に欠かせない俳優とも言える池田成志。ハムレットの母でデンマーク王妃ガーツルードには、「ナースのお仕事」「29歳のクリスマス」「大奥~第一章~」をはじめ多くのテレビドラマでお茶の間に親しまれ続ける俳優であり、『LOVE LETTERS』、三谷幸喜作・演出の『ダア!ダア!ダア! Dah!Dah!Dah!』や『ブライトン・ビーチ回顧録』などの舞台でPARCO劇場とも縁が深い松下由樹。現王にしてハムレットの叔父にあたるクローヂヤスには、映画、テレビドラマ、そして舞台と、円熟味という境地での俳優としての奥行を感じさせる平田満という顔ぶれ。木村曰く、「このカンパニーは、全員〝クセ〟しかないと思える人たちの集まりです」と。まさに〝華〟と〝クセ〟を併せ持つ俳優がそろった。
初日の前日、7人の俳優たちと、上演台本と演出を手がける五戸真理枝がそろって会見に臨んだ。五戸は、『コーヒーと恋愛』『貴婦人の来訪』『毛皮のヴィーナス』で、本年発表された第30回読売演劇大賞の最優秀演出家賞を受賞したばかりで、PARCO劇場初登場である。上演に当たって、五戸は太宰の言葉を生かすことに留意したと言う。「台本の137ページ中133ページは太宰の言葉で構成しています。俳優のしゃべり辛さを考慮していないんです。俳優の方々にはご苦労をおかけしましたが、作家・太宰治の一言一句、すべての言葉に愛があるということを感じながら書きました。お客様にも、このいびつな愛を受け取っていただければ」とコメントした。