公開翌日の6月10日(土)、『逃げきれた夢』公開記念舞台挨拶が新宿の武蔵野館で行われた。会場には主演の光石研と二ノ宮隆太郎監督が緊張した面持ちで登壇する。
二ノ宮監督は、小さい頃から光石の大ファンで「光石さんがドラマや映画に出ていたら観ていました。幼いながらにも、『そこにいる』感覚が他の人とは違うと感じていました」と言うほど。
光石は、生まれ育った故郷・北九州での撮影となったが、「18歳まで遊んでいた場所で何かに扮して演技をするなんで本当に恥ずかしかった。地元の友だちが電信柱の陰から見たりしているんですよ」と撮影中の話も明かされる。北九州市の黒崎で育った光石だが、「黒崎が舞台の映画なんてほとんどないと思うので、歴史に残る史料になるのでは」と語った。
本作は、第76回カンヌ国際映画祭のACID部門に選出され、現地の上映に合わせ光石、二ノ宮監督ととともにカンヌへ飛んだ。光石にとっては故・青山真治監督の『ユリイカ』(2000年)以来、23年ぶりの出席となった。
「ACID部門というのは、商業ベースに抗うような若い監督たちが世界中の映画を観て選ぶ作品と聞いて、そこに選出されたのが誇らしい気持ちでした。温かい拍手をいただいて、幸せでした」と語る。
本作はもともと、故・緒形拳さんを主演にすべく温められた企画だったことも明かされた。
そして、この日はサプライズで、光石から監督への手紙が観客の前で朗読された。
前略 二ノ宮隆太郎カントク
唐突ですが、僕は貴方の事を知りません。
貴方が何処に住み、家賃はいくらなのか。
年齢もあやふやだし、出身地もふわっとしか分からない。
ただ、「貴方の見つけた事」はあります。
それは 貴方が、御両親を愛していると云う事です。
それは 貴方が、スタッフ・キャストを愛していると云う事です。
それは 貴方が、映画を愛していると云う事です。
貴方が、ロケ地に御両親を御招きしたり、完成披露試写会で、お父様のスーツで登壇したり。
貴方が現場で、誰にでも平等に接し、真摯に向き合う姿を見たり。
貴方が、カンヌの上映後、感動のあまり、号泣しながら夜道を歩いたり。
そんな貴方を僕は知っています。
そして、御両親が キャスト・スタッフが それから映画が そんな貴方を愛しています。
貴方のマジメで誠実な性格で、愚直に撮り続けてください。
最後にパワハラをひとつ 「また、俺をつかえよ」
「逃げきれた夢」初日上映 おめでとうございます。
光石研
翌日,6月11日(日)は、北九州での舞台挨拶を控えている光石。本作に出演した実の父・光石禎弘さんも初めて本作を鑑賞することになるという。
『逃げきれた夢』は全国公開中。