新宿・歌舞伎町、新宿コマ劇場の地下にあったシアターアプルで、〝いのうえ歌舞伎〟『髑髏城の七人』が上演されたのは1991年のことだった。そこから17年後の2008年、天下の商業演劇の殿堂・新宿コマ劇場で『五右衛門ロック』の1か月公演を敢行するも、その年の終わりにコマ劇場は長い歴史に幕を閉じた。それから15年後の2023年、再び歌舞伎町のど真ん中に新劇場<THEATER MILANO-Za>が誕生した。ならば、〝いざ歌舞伎町〟とばかりに、新宿に根付いた劇団✩新感線が、最新作の王道〝いのうえ歌舞伎〟を歌舞伎町のど真ん中で上演中だ。
9月14日に初演を迎えた上演作品は『天號星』。元禄時代の江戸の町で裏稼業に生きる人々の人情劇を、作者の中島かずきが〝あっ〟と驚く<入れ替わり>の物語で魅せる。そして主宰・いのうえひでのりによる、ケレン味たっぷりの王道〝いのうえ歌舞伎〟に、江戸情緒が香る〝池波正太郎〟エッセンスが加わり、これまでの〝いのうえ歌舞伎〟とは一味違う、新感線流時代活劇を誕生させた。
世のため人のため、生きていてはならない輩に引導を渡す、引導屋の主人・藤壺屋半兵衛を演じるのは、劇団✩新感線の看板俳優・古田新太。その半兵衛とひょんなことから中身が入れ替わってしまう冷酷無比なはぐれ殺し屋・宵闇銀次を演じるのは、今作で新感線7回目の出演となる早乙女太一。そして、銀次の宿敵で荒くれ者の人斬り朝吉を演じるのは、新感線5回目の出演となる早乙女友貴。もはや準劇団員といっても過言ではない2人だが、古田との共演は、太一が19年の『けむりの軍団』以来、友貴が22年の『薔薇とサムライ 2』以来で、兄弟揃って古田と共演するのは今回が初!となる。
中島かずきは、「古田と太一の人格入れ替わりが一番の見せ場となるだろう。太一が、斬って斬って斬りまくる役を以前からやってみたかった」と言えば、演出のいのうえひでのりは、「久しぶりにいろんな趣向のチャンバラを見せることができるだろう。入れ替わりのドタバタとスリリングが見せ場の一つ」そして、「昔と違うのは、やみくもに戦うのではなく、我々もキャリアを重ねてちゃんと意味のある立ち回りを作れていると思います」と作品を紹介する。
子供の頃からのあこがれの場所だった新感線の舞台で、古田の殺陣を色っぽいと感じていたという早乙女太一は、「久しぶりの新感線の舞台で、今回はそろそろ古田さんをしとめるときかなと思っている」と言えば、弟の友貴は「前回は古田さんと戦えなかったのですが、今回やっと古田さんと刃を交えることができるのが楽しみ」と抱負を語っていた。兄弟での共演は所属する大衆演劇「劇団朱雀」以来、9年ぶりということだが、兄弟での殺陣は、気を遣うこともなく、本当にあたることもあるという。それだけ、互いを知り尽くし信頼しあい、呼吸をつかみきっている証だろう。
共演は、NHK大河ドラマ「どうする家康」の五徳役や舞台『夜は短し歩けよ乙女』などで注目されている乃木坂46のメンバーの久保史緒里。幼少期から中国武術に親しみ、数々の作品で度肝を抜くアクションを披露し、次世代を担うアクション俳優として注目を集めている山本千尋。本年の舞台『新ハムレット』でも、観客を惹きつけて離さない自在な演技が注目され、本作が14作目の参加となる新感線最多の出演歴を誇る池田成志。そして高田聖子、粟根まことを始めとする平均年齢50代のお馴染み劇団員たちも揃い踏み。久保と山本は、共に新感線の舞台に初参加で、「今まで観客として生命の原動力をもらえていた舞台に参加できるのが楽しみ」「上京して初めて観た舞台である新感線の舞台にいつか出てみたいと思っていた夢がやっと実現できたという万感の思い」と、それぞれに初参加の喜びを語っていた。演出のいのうえは、「久保さんは、ゴシックメタル調の曲を歌うんだけど、彼女の持つアイドルの雰囲気が相まって凄く良いです」「山本さんは、昨年の大河ドラマで披露したアクションで期待が膨らむと思いますが、そこにはバッチリ応えて誰よりも一番戦ってくれています」と初参加の2人を讃える。
早乙女太一が、「今回の劇場は舞台と客席との距離が近く、こんなに間近で新感線の舞台を感じられるのも滅多にないと思います」と言えば、友貴も「本格時代劇なのでカッコいい要素はもちろんあるけれども、ちゃんとふざけて遊んでいる。その真剣さと軽妙さの絶妙なバランスが新感線の楽しいところ」と、本作の魅力を語る。そして、いのうえひでのりは、「この作品はテレビ時代劇へのオマージュ度が高く、いろんな要素がたくさん出てきます。時代劇のセオリーに則った芝居をきっちり届けたいです」と。