23.10.19 update

小柳ルミ子、天地真理と共に〝新三人娘〟と呼ばれ、〝世代的共感を歌うアーティストの始まり〟とも評価された〝ソニーのシンシア” 南沙織「色づく街」

 季節の中で、その年初めてセーターに袖を通す日は、夏の終わりを実感すると同時に、心なしか空気が澄み切った感じもして気分もリフレッシュできる、一年でもとても好きな一日だ。そんな秋の気配を感じられるようになると、聴きたくなる曲がある。南沙織の「色づく街」も、その1曲だ。
「色づく街」は1973年8月21日に、秋に向けてリリースされた南沙織9枚目のシングルで、作詞・有馬三恵子、作曲&編曲・筒美京平というデビュー以来のコンビが手がけている。オリコン・シングルチャートの最高位は4位で、3回目の出場となったNHK紅白歌合戦でも歌っている。〝トゥルン、トゥルン、トゥルン、トゥルン、トゥルン、トゥルン〟(なぜか、僕の頭にはこう刻まれている)といった感じのイントロは、イントロ曲当てクイズがあれば、今でも瞬時にその曲とわかる、とても印象的なものだった。1年前の72年の同時期には、やはり秋のイメージのしっとりした楽曲「哀愁のページ」がリリースされていた。南沙織を評するさまざまな言葉の中に、〝世代的共感を歌うアーティストの始まり〟というのがあるが、この評価は実にしっくりとくる。
 デビュー曲「17才」からスタートし、夏の季節には「純潔」「傷つく世代」「夏の感情」といったビートの効いた楽曲がリリースされ、秋に向けてはその年代の女性の心情をしっとりと、そしてメランコリックに歌った楽曲がリリースされている。「哀愁のページ」「色づく街」に加えて、75年に日本レコード大賞歌唱賞を受賞した中里綴作詞、田山雅充作曲の「人恋しくて」、76年のジャニス・イアンの作曲で、松本隆が作詞を手がけた「哀しい妖精」も秋に向けてリリースされている。デビュー前に組まれた、プロデューサー、作詞家、作曲家たちによるプロジェクトチームが、南沙織を大事に育てていこうという思いが、こんなところからも見えてくる。ちなみに「人恋しくて」は、カヴァー・ソング以外で、初めて有馬&筒美コンビではないシングルA面曲だった。

 南沙織のレコード・デビューは71年6月1日、前述したCBS・ソニーからリリースした「17才」によってであった。デビューに向けたプロジェクトが組まれて、レコード・デビューまでは、わずか3か月足らずという、当時異例な速さであった。南沙織がリン・アンダーソンの「ローズ・ガーデン」を歌えると聞き、そのことが元になって筒美は「17才」を書きあげたという。南沙織の声は、どこかリン・アンダーソンに似ていて、カバーで歌った「ローズ・ガーデン」を聴いたとき、南沙織のオリジナル曲ではないかと思ったほどだった。「17才」はまさに、南沙織の声質を活かした、ぴったりのデビュー曲だった。この瞬間、歌い手と同世代のファンが感情移入できる、アイドル・ポップスが誕生したとも言われている。オリコン・シングルチャートでもいきなり2位にランキングされ、71年度年間ランキングでも11位というヒットで、もちろんレコード大賞新人賞も受賞し、紅白歌合戦にも紅組トップバッターとして初出場を飾った。白組トップバッターは、「また逢う日まで」でレコード大賞を受賞した尾崎紀世彦だった。
 余談だが、「また逢う日まで」の作曲も筒美京平であり(作詞は阿久悠)、この年のレコード大賞関係では、金賞の渚ゆう子「さいはて慕情」(作詞は林春生)、大衆賞の堺正章「さらば恋人」(作詞は北山修)、作曲賞受賞対象曲となった朝丘雪路「雨がやんだら」(作詞はなかにし礼)、平山三紀(現・平山みき)が独特の魅力的な声で歌った「真夏の出来事」(作詞は橋本淳)と、筒美京平作品が6曲も受賞している。しかも、驚くべきことに作詞家がすべて違うのだから、筒美京平は、いずれの作詞家ともいいメロディを生み出すことができる、やはり天才作曲家だったとしか言いようがない。

 閑話休題、デビュー曲以来、彼女を見守ってきている有馬三恵子、筒美京平という同じ作詞家、作曲家が楽曲を4年近く担当し続けているのも、南沙織の歌手としての成長に大きく影響しているのではないだろうか。「潮風のメロディ」「ともだち」「純潔」「哀愁のページ」「早春の港」「傷つく世代」、そして「色づく街」。南沙織のデビューからのシングル曲を順番にそらで言えるのも、有馬と筒美の力が大きいと思える。その後も、「ひとかけらの純情」「バラのかげり」「夏の感情」「夜霧の街」「女性」「想い出通り」という具合だ。もっとも、僕が南沙織の楽曲に注目していたことも多分にあるが。

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