実在した芸術家アルド・ブライバンティとその恋人エットレ、過酷な時代を生きた、二つの魂の軌跡を描く『蟻の王』が、11月10日(金)より全国順次公開となる。
1960 年代、ポー川南部の街ピアチェンツァ。詩人で劇作家、蟻の生態研究者でもあるアルドが主催する芸術サークルには、多くの若者が集っていた。そんな中、アルドは若者の一人エットレと惹かれあい、二人はローマに出て生活を始める。
しかしエットレの家族は二人を引き離すため警察に通報、アルドはファシスト政権下に成立した教唆罪で逮捕され、エットレは矯正施設に送られ、同性愛を“治療”するための電気ショックを幾度となく受けることになる。世間の好奇の目に晒されながら、裁判が始まった。傍聴に通う新聞記者エンニオは、社会の不寛容に声を上げるのだが…。
人と人の繋がりを、時に冷徹に、時に繊細に描き続けた名匠ジャンニ・アメリオ監督最新作は、史実に基づいた、愛と人間としての尊厳を描いた。監督は、「今も存在する〝異なる人〟に対する憎悪に立ち向かう勇気を与えたい」と制作の動機を語った。
──この作品は、暴力と偏見の鈍感さについての、または同調主義と偽善にさらされる愛についての映画。経済的な発展と、人々の物事に対する意識が同じペースで成長しなかった、重要な60 年代イタリアの地方生活の一面を描いている。感情の開放として。家族という閉鎖的なコミュニティでは、世代間の不和が激しく対立している。半世紀以上経った今でも、この事件には不穏な要素が含まれている。見る人は不思議に思うかもしれない。「どうしてこんなことが可能だったのだろう?」「どうしてこんなことが起こったのだろう?」と。今日において、表面的には誰もスキャンダルを起こすようなことはしなくなったが、『蟻の王』には異端審問のようなものがあり、私たちは今でもそれを毎日目撃している。なぜなら、人間は本質的にはあまり変わっていないからだ。寛容そうに見える表情の裏には、偏見が存在し続け、「異なる」人に対する憎悪や軽蔑を生み出している。今はもう、保護されていない個人に対するいかなる虐待に屈したり、容認したりする時代ではない。人々の心に反抗する勇気を刻み付けるためにこの映画は作られた──
本作は、第79 回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品された。ジャンニ・アメリオ監督は、40 年のキャリアで長編作品14 作と寡作だが、ヨーロッパ映画賞最優秀作品賞を『宣告』、『小さな旅人』、「Lamerica」で3 度にわたり受賞しており、イタリアのみならずヨーロッパを代表する名匠である。イタリア映画界を代表する名優ルイジ・ロ・カーショ、エリオ・ジェルマーノに加え、新星レオナルド・マルテーゼの全身全霊の演技が感動的だ。
蟻の王
11月10日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
(c) Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
配給:ザジフィルムズ
公式HP: http://www.zaziefilms.com/arinoo/