古くから江戸随一の繁華街として栄えていた浅草。天保13年(1842)以降、現在の浅草公会堂がある場所からほど近い猿若町に「江戸三座」と呼ばれる幕府後任の芝居小屋が立ち並び、大変な賑わいを見せていたと伝わる。その後も、明治、大正、昭和と、浅草はショー・ビジネスの中心地として栄えたが、戦後、浅草での歌舞伎興行は途絶えていた。『初春花形歌舞伎』として、浅草での歌舞伎興行が復活したのは昭和55年(1980)の正月のことだった。
そして、平成15年(2003)には、『新春浅草歌舞伎』と名称を変え、尾上松也を中心とするフレッシュな顔ぶれに出演者も一新され、2024年で10年目を迎えることになる。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、2021年、2022年は浅草公会堂での開催が見送られ、歌舞伎座にて『新春浅草歌舞伎』のメンバーを中心に演目を披露した。2023年に『新春浅草歌舞伎』が再始動したが、それでも1部と2部とは出演メンバーもわかれていた。10年目を迎える今回は、1部、2部ともにすべてのメンバーが出演し、3役、4役を勤めるという本来のスタイルに俳優たちも、今まで以上の気持の入りようを見せている。
特に、今回10年ひとくくりとして、尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人の7名は卒業ということで、思いもひとしおだろう。製作会見には、その7名に加え、中村橋之助、中村莟玉も登壇し、それぞれの思いを語った。
リーダー格の尾上松也は、「30代最後の年となる2024年に、10年目にして最後となる新春浅草歌舞伎への出演となります。まだ若手のつもりでいましたが、もっと若手のときに、浅草歌舞伎を夢見て励んできた思いを、次世代の若手に託すことにしました。2015年の浅草歌舞伎の転換期に、中心となって任せていただいたときは、どうやって盛り上げていけばいいのかという大役に不安もありましたが、若い連中が積極的に盛り上げていきましょうと声をかけてくれ、嬉しかったことを思い出します」と。古典の大役が並ぶ今回の演目では、『源氏店』『どんつく』『魚屋宗五郎』に出演。その『魚屋宗五郎』に関して、「七代目菊五郎兄さん(尾上菊五郎)のお役をずっと見続けてきた私にとって、自身の浅草の締めくくりとして演るのはこの演目だと思っています。世話物は出演者のチームワークが必要な演目で、これまで築き上げてきたものを出演者一丸となってお見せしたい」と意欲を見せる。