23.12.28 update

ホテル経営から美術館の館長へ。目指すは「心をゆさぶる美術館」

文=野口弘子(ポーラ美術館 館長)


◆ジグゾーパズルのピースとしての役割◆

 2023年12月16日から「モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ―機械時代のアートとデザイン」展が開幕しました。企画展によって展示室の雰囲気や空気感はまったく異なる空間になるのですが、直前の企画展が「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画」展というテーマだったこともあり、ときどき展示替えの様子を覗いていたにも関わらず、ガラリと変わった展示室の変貌ぶりにはびっくり! 一言で言うと、美術館の中に「博物館」が生まれた感じです。100年前のパリにタイムスリップしたそんな気持ちで体験してもらいたい、この時間旅行にたくさんのお客様に来ていただきたい、純粋にそんな気持ちになります。

 さてわたし自身は2023年7月にポーラ美術館の館長に就任しました。わたしの三十数年のキャリアはホテルの現場や関連する仕事で、美術のバックグランドは皆無ですがその大役を担うことになりました。なぜそんなわたしがポーラ美術館の館長に、驚きますよね。でもそれはまさしく空いていたジグゾーパズルのピースのように、ポーラ美術館が目指す将来ビジョンに対してその複数の課題に取り組んでいく人材として、わたしの知見や経験が適任としてハマったんだなと感じます。

 ポーラ美術館の箱根の森にとけこむような立地や建築物は唯一無二で、コレクションは豊富で世界に誇れる素晴らしい名作があり、また近年は現代アートを絡めた独特の企画展を継続し、それへの評価も上がっています。これはもちろん歴代の館長が築いてこられた成果です。その歴代の館長が築いてこられたものを継承しながらも、ここからさらにポーラ美術館が次のステージへと押し上げる必要がある。将来を見据えて取り組むべき課題を明確に捉え、常に進歩的で挑戦的な美術館の将来のあり様を描いていこうとするその美術館の姿勢には感銘と共感を覚え、怖さはありながらも喜んでそのピースの役割を引き受けさせて頂くことにしました。

前企画展から全く趣の変わった「モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ―機械時代のアートとデザイン」展 展示風景 Photo by Ooki JINGU

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