24.02.01 update

レコード大賞受賞曲「天使の誘惑」の翌年にリリースした歌い継がれるヒット曲 黛ジュン「雲にのりたい」

シリーズ/わが昭和歌謡はドーナツ盤

 黛ジュンを初めて観たのは、小学校6年だった。昭和40年代、東芝音楽工業(現・ユニバーサル ミュージック)の協賛番組で日曜の午後の時間帯にTBS系列で放送されていた「東芝 歌うプレゼントショー」という番組があった。ティータイム時だったので、おやつを食べながら、家族そろって観ていた団欒の景色が今でも思い出される。坂本九、越路吹雪、加山雄三、「野バラ咲く路」を歌っていた市川染五郎(現・松本白鸚)など、当時東芝所属の歌手たちが出演していた。この番組が黛ジュンとの出会いだった。大胆なミニスカートで、デビュー曲「恋のハレルヤ」をパンチの効いた独特の声で歌っていた。小学生の僕には、かなりインパクトがあった。同時期には、奥村チヨ、小川知子も出演しており、東芝では〝東芝三人娘〟として売り出していたようだ。その後、欧陽菲菲、「愛がはじまる時」でデビューした風吹ジュンや、「初恋のメロディー」の小林麻美もこの歌番組で知った。

 黛ジュンのパンチのある歌声は、弘田三枝子のパンチの効いた歌唱力とはまた違うものだった。コブシの効いたポップスと言えばいいのか、演歌にも通じる歌声で、ポップスを歌っている、そんなパンチ力だった。だから、68年に5枚目のシングルとしてリリースした日本的なメロディの曲「夕月」も違和感なくヒットさせている。

 黛ジュンは、64年に渡辺順子の名で歌手デビューしていたが、ヒットには結びつかなかった。67年に石原プロモーションに移籍し、「黛ジュン」と改名し再デビュー曲として2月15日にリリースしたのが「恋のハレルヤ」だった。グループサウンズのブームが巻き起こっていた時代で、そのサウンドと歌声、ミニスカートが注目を浴び、〝一人GS〟などとも言われていた。作詞はなかにし礼、作曲は奥村チヨ「恋の奴隷」、ザ・ゴールデン・カップス「長い髪の少女」、西城秀樹「情熱の嵐」、朱里エイコ「北国行きで」の作曲でも知られる鈴木邦彦が手がけている。同年大晦日のNHK紅白歌合戦にも初出場を果たした。67年の初出場組には、佐良直美、山本リンダ、布施明、菅原洋一、荒木一郎らがいる。

 2枚目シングルとしてリリースした「霧のかなたに」もまた、GSサウンドを思わせる曲だったが、黛ジュンは、パンチ力を抑制した歌唱で、デビュー曲を上回るヒットに結びつけた。初登場の紅白で歌われたのは「霧のかなたに」だった。その後、「乙女の祈り」、「天使の誘惑」、「夕月」とヒット曲を連発した。作詞はいずれもなかにし礼で、作曲は「夕月」以外は鈴木邦彦が担当した。「夕月」の作曲は、実兄の三木たかしだった。「夕月」のB面の鈴木邦彦作曲の「愛の奇蹟」もファンの間では、隠れた名曲として人気があった。そして「天使の誘惑」は、68年の日本レコード大賞で大賞に輝いた。紅白では2回目の出場にしてトリ前に登場し歌唱している。サイモン&ガーファンクル「サウンド・オブ・サイレンス」、ビートルズ「ヘイ・ジュード」、ポール・モーリア「恋はみずいろ」、ディオンヌ・ワーウィック「サンホセへの道」、青江三奈「伊勢佐木町ブルース」(歌唱賞受賞)、ピンキーとキラーズ「恋の季節」(新人賞受賞)、伊東ゆかり「恋のしずく」(編曲賞受賞)、ザ・フォーク・クルセダーズ「帰ってきたヨッパライ」、島倉千代子「愛のさざなみ」、ザ・ダーツ「ケメ子の歌」、千昌夫「星影のワルツ」、ザ・タイガース「花の首飾り」、黒沢明とロス・プリモス「ラブユー東京」、そんな歌が巷では流れていた。

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