ドイツのラッパー&音楽プロデューサーのXatar(カター)をご存知だろうか。ドイツでは知らないものがいないほどのスーパースターである。2015年に出版したカターの自伝『Alles oder Nix: Bei uns sagen man, die Welt gehört dir(オール・オア・ナッシング:世界はお前のもの)』をもとにドイツの名匠ファティ・アキン監督が、映画化した『RHEINGOLD ラインゴールド』は、2022年にドイツで公開されると、1000万ドル近い興行成績をあげ数々の映画賞を席巻し、ついに3月29日より日本公開となる。
アキン監督は、『女は二度決断する』でゴールデングローブ賞外国映画賞を獲得したほか、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンでも主要賞を受賞している。
カターは、本名、ジワ・ハジャビ。1981年にクルド系音楽家の両親のもとイランで生まれた。父親は作曲家だ。しかし、イラン・イスラム革命により、音楽の自由を奪われた一家は命からがらイラクに亡命するが、サダム・フセイン政権によるクルド人迫害で、ジワが3歳の時家族は逮捕されてしまう。父親が高名な音楽家であったためパリに亡命することができ、その後ドイツのボンへ。ところが父親が愛人を作って家を出てしまうと、母親と貧しい底辺の生活を強いられ、いじめで痛めつけられる毎日。やり返したいという一心でボクシングを覚え、Xatar(カター)と呼ばれるようになるのだ。カターは、クルド語で<危険>という意味である。
小金を稼ぐためにポルノビデオをコピーして学校で売ることから始まり、ドラックの売人や用心棒、遂には金塊強盗をして世界的な指名手配犯にまでなってしまうのだが、ヒップホップに出会い、興味をもつようになっていった。ドイツは意外にも、ヨーロッパでもっともヒップホップの人気が高い国だ。
驚くのは、カターは収監されたドイツの刑務所で、レコーダーを入手し部屋で録音をする。するとアルバム「Nr.415」がドイツのアルバムチャート19位にランキングされ、続く2枚目のアルバムも1位を獲得。プロデュースする楽曲も軒並みヒットし、さらには、飲食業、ジュエリーやファッションまで手掛けるようになるのだ。信じられないようなカターのサクセスストーリーだが、実話である。
破天荒なカターの人生は、決して高潔な人物とは言い難い。そこに面白さを感じたアキン監督は、クルド人、ドイツのヒップホップ、コカインの売買など知識ゼロの状態から映像化にこぎつけた。撮影現場はかなりリアリティがあるが、カター本人も参加し、アイディアが盛り込まれた。
カターの犯罪により、父親も失職し妹も就職をできないというなか、面会に来た父親の言葉「ここなら交響曲が書ける」はカターを発奮させた。そんな父親の作曲したクラシック曲が劇中で使われるなど様々な音楽要素も十分に楽しむことができる。
本作でカターを演じたエミリオ・ザクラヤはミュージシャンでもあり、27歳とまだ若く、今後ドイツの若手スターと注目されるだろう。鑑賞のあとしばらくエミリオが歌ったヒップホップが耳から離れなかった。
『RHEINGOLD ラインゴールド』
3月29日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次ロードショー!
監督・脚本:ファティ・アキン
出演:エミリオ・ザクラヤ、カルド・ラザーディ、モナ・ピルザダ
配給:ビターズ・エンド
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