24.10.24 update

急逝からもう一年。追悼コンサートでも歌われたアリスの「秋止符」を聴きながら、過ぎ行く秋と谷村新司を偲ぶ



「なんでお前は逝ったんだ」という堀内孝雄の悲痛な叫びが、テレビの画面に映った。昨年10月8日に帰らぬ人となった谷村新司の追悼コンサートが日本武道館で9月18日に開催されたが、そのごく一部がニュースでも流された。アリスのボーカル、ギター担当の堀内とドラム&パーカッション担当の矢沢透がステージにあがり、生前の谷村の映像をシンクロさせた特別なコンサートだった。集まったファン約8,000人はそれぞれの想いに浸りながらステージを見守った。10月13日には大阪城ホールでのコンサートも無事終わったわけだが、ともに歩んできた仲間がある日突然いなくなってしまう、その無念さは筆舌に尽くし難いことだろう。堀内の叫びが痛々しかった。

 
 私自身は77年10月にリリースされた「冬の稲妻」から彼らの音楽に接した気がする。一人は髭を蓄えたちょっと厳つい感じ、もう一人はアポロ・キャップを深くかぶって顔が見えない。ツートップの後ろで髪を振り乱しながらドラムを叩いている3人は、可愛らしい女の子の名前〝アリス〟とは相反していた。けれども「冬の稲妻」のギター二人のハモリは抜群で、曲の途中に入る「Ha(ハー)」というのが印象的だった。男くさいグループが出てきたと思ったら、彼らのデビューは72年3月で、「走っておいで恋人よ」という、優しい詞と流れるような爽やかなメロディーの〝THEフォーク〟という感じの曲だったことは後で知った。

 
 グループの誕生を振り返ると、70年大阪で万博博覧会が開催されたころに遡る。それは大阪が一瞬で変わった時期でもあり、彼らが本格的に音楽の道に進むことになった分岐点でもある。大阪の大学生だった谷村は、「ロック・キャンディーズ」というフォークグループのリーダーをしていた。万博のステージでアマチュアバンドとして参加し、のちにアリスも所属する音楽プロダクション「ヤングジャパングループ」を設立した細川健と出会う。細川に誘われ北米横断ツアーに参加した谷村は、同じくツアーに参加していた矢沢透と意気投合した。堀内孝雄も京都の大学でアマチュアバンドのボーカルをしていたが、谷村に誘われ、矢沢が合流することを前提にメンバーに参加。72年5月、奈良市での公演から3人そろった「アリス」が誕生したのである。因みにグループ名の「アリス」は、北米横断ツアーの時、目にしたロサンゼルスのレストラン「Alice」のロゴがかっこよく、プロになるのだったら、「Alice(アリス)」という名前にしようと決めたそうだ。

 デビューはしたものの、しばらく陽の目を見ない時期が続く。「特急の停まる市の市民会館にはほとんど行った」というほど地道なツアー活動を続けたが、1,000人収容のホールに20人、2,700人収容の大きなホールでは観客が200人足らずといった状況で、今では笑い話になるがプロの道は容易ではなかった。

 
 谷村はメジャーになる前から、深夜放送のDJを続けていた。毎日放送では京都出身で旧知の仲だった、ばんばひろふみと一緒に「ヤングタウン」、その後文化放送の「セイ!ヤング」に出演し話題になっていった。下ネタを連発させた二人の軽妙なトークに、心を鷲づかみにされた男子も多かったようだ。谷村は一週間のうち2日は深夜放送、残りの4日間がコンサートというスケジュール。水曜日の「ヤングタウン」が終わったあとは、大阪の実家の近くに借りている部屋に帰るのが習慣だった。ひっそりと静まり返った部屋のこたつの上には、サンドイッチと熱いお茶が入ったポットが置かれていた。それは谷村の父親が息子のために用意したものだった。そしていつか自分も親になることがあったら、せめてサンドイッチくらいは買ってやりたいと、谷村のエッセイ『何処へ……』に書いてあったが、当時の状況は映画の一場面のようだ。

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映画は死なず

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