new 24.12.24 update

第20回【私を映画に連れてって!】中山美穂は『Love Letter』で初の映画賞「ブルーリボン賞主演女優賞」を獲得した。そして、「映画祭」と「映画賞」の関係を考えてみる。




1981年にフジテレビジョンに入社後、編成局映画部に配属され「ゴールデン洋画劇場」を担当することになった河井真也さん。そこから河井さんの映画人生が始まった。
『南極物語』での製作デスクを皮切りに、『私をスキーに連れてって』『Love Letter』『スワロウテイル』『リング』『らせん』『愛のむきだし』など多くの作品にプロデューサーとして携わり、劇場「シネスイッチ」を立ち上げ、『ニュー・シネマ・パラダイス』という大ヒット作品も誕生させた。
テレビ局社員として映画と格闘し、数々の〝夢〟と〝奇跡〟の瞬間も体験した河井さん。
この、連載は映画と人生を共にしたテレビ局社員の汗と涙、愛と夢が詰まった感動の一大青春巨編である。



 12月6日に中山美穂さんが急逝してしまった。哀悼の意を捧げたい。


『Love Letter』(1995)でブルーリボン賞を獲った時の取材インタビューで「この映画に出逢うために私の10年間の長い旅がありました……」と答える映像が今回、各局で放送されていた。


 以前、『木村家の人びと』(1988)で桃井かおりさんに出演を依頼した際も「ブルーリボン主演女優賞が欲しいな!」と言われた。その通りになり本人に受賞を伝えた時、とても喜んでくれた。


 アイドルとして10年間を過ごしてきた中山美穂さんにとっても「ブルーリボン主演女優賞」は嬉しかったに違いない。「映画女優」として初めてもらった主演賞であり、自分が心底賭けて出演した映画だったということもあるはずだ。出演前は「最後の映画になってもいい」と言っていたが、立て続けに『東京日和』(1997)等にも主演し、映画賞も受賞した。女優として自信も出来たと思う。


▲中山美穂が『Love Letter』で主演女優賞を獲得した1995年度ブルーリボン賞の作品賞は『午後の遺言状』、監督賞は『ガメラ 大怪獣空中決戦』の金子修介、主演男優賞は『写楽』ほかで真田広之、助演男優賞は『マークスの山』の萩原聖人、助演女優賞は『ガメラ 大怪獣空中決戦』の中山忍が受賞している。主演・助演の女優賞を姉妹で受賞していた。ちなみに50年の第1回ブルーリボン賞は、作品賞が『また逢う日まで』、監督賞が『また逢う日まで』今井正、主演男優賞が『宗方姉妹』ほかで山村聰、主演女優賞が『てんやわんや』ほかで淡島千景だった。




「ブルーリボン賞(映画賞)」は歴史も古く1950年に設立されている。当初は一般新聞も参加していたが、僕が映画を創りだした時は、東京のスポーツ7紙(報知・デイリー・サンスポ・スポニチ・東中・東スポ・日刊スポーツ)の映画担当記者で構成される「東京映画記者会」が主催していた。

 スポーツ紙が、文化・芸能の情報を発信し、僕も映画記者との交流を持つことも多く、スクープ記事として、大きく紙面で取り上げてもらったことは何十回とある。スポーツ紙が芸能ジャーナリズムの中心だったことは日本特有であったが、試写室に行くと記者たちが真剣に映画を観ている状況に度々出くわした。映画評論家を兼ねているところもあったと思う。ブルーリボン賞は賞状を青いリボンで結んであり、賞金はなく、名入りの万年筆をもらえたような気がする。

 一方で、認知度が一番高いのは「日本アカデミー賞」だ。履歴書に載せるにはこの賞が最も効果があるかもしれない。何といってもプライムタイムで放送があり、1000万人前後の人が視聴する映画賞はこれだけだ。


 私も過去に10回程度参加しているが、電通が仕切りながら、日本テレビ独占放送、実際は大手配給会社中心に運営されてきた。第4回の1981年3月、『影武者』(1980)は、実際は受賞者が多数いたものの、黒澤明監督はじめ俳優、スタッフらがボイコットしてしまった年だった。ちょうど、僕がフジテレビに入社の年で、衝撃だった記憶がある。「テレビ界」と「映画界」の違いを感じさせられた。


 それから10数年後の1997年。僕が製作していた『スワロウテイル』(1996)にも似たようなことが起きた。日本アカデミー賞は会員の投票(僕も会員の1人/現在は4000人程度か)により、まず部門ごとに5作品がノミネートされる。ここはアメリカのアカデミー賞や、他の映画賞と異なり、この時点で既に「受賞者」となり、たとえば「優秀主演男優賞」となる。最終の授賞式で、この5人が壇上に上がり、1人の最優秀主演男優賞が決まる。このシステムは日本アカデミー賞だけである。

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.25
    第6回【東宝映画スタア☆パレード】植木 等 ─ も...

    文=高田雅彦

  • 2024.12.24
    第20回【私を映画に連れてって!】中山美穂は『Lo...

    文=河井真也

  • 2024.12.23
    松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若...

    〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

  • 2024.12.19
    NHK紅白歌合戦の変遷をたどってみたら、東京宝塚劇...

    石橋正次「夜明けの停車場」

  • 2024.12.18
    坂本龍一が生前、東京都現代美術館のために遺した展覧...

    音と時間をテーマにした展覧会

  • 2024.12.18
    新しい年の幕開けに「おめでたい」をモチーフにした作...

    年明けに縁起物の美を堪能する

  • 2024.12.17
    第26回【キジュからの現場報告】喜寿を過ぎて─萩原...

    これからは地方の都市に住むかもしれない……

  • 2024.12.16
    【帯津良一・88歳のときめき健康法】アロマテラピー...

    文=帯津良一

  • 2024.12.12
    ベルリン国際映画祭金熊賞受賞!桃農家を営むスペイン...

    スペインの桃農家のできごと

  • 2024.12.12
    三菱一号館美術館 再開館記念「不在」─トゥールズ=...

    リニューアル後初の展覧会

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!