25.09.18 update

ばんばひろふみの「SACHIKO」は、全国の「さちこ」さんだけでなく、頑張る女性の応援歌として、人々を励まし続けている



 小学校2年生の頃だったろうか、自分の名前の謂れを親に聞いて発表するという道徳の授業があった。それぞれ、心の美しい子に育って欲しいとか、健康で逞しい子に育って欲しいなど親の願いが込められていた。私はというと、「桃の節句」に生まれたから、「桃子」と決まりそうなところを、名前の字画数で姓名判断をする親戚の人から、「百々子」にしたほうが幸せになれると助言されたからだ。私は少し拍子抜けしてしまった。姓名判断のもと私は「百々子」と命名された。

 しかし、20代、30代の頃はこの名前が嫌いだった。第一志望の進学や就職先は達成できず、恋も成就しない。いつもイライラしていた。運勢がいい名前なんて嘘だと、安易な命名をした両親に腹を立てていた。けれども、そんな私の投げやりな気持ちを優しく包んでくれたのが、ばんばひろふみの「SACHIKO」(作詞・小泉長一郎 作曲・番場章幸、編曲・大村雅朗)だった。


「SACHIKO」は、フォークグループ「バンバン」を1978年に解散しソロになったばんばひろふみがリリースした4枚目のシングルで、発売は79年9月21日である。この時期は歌謡番組も盛況で、今でも耳の残るものが多い。特に「SACHIKO」と同じ年の代表曲には、西城秀樹の「YOUNG  MAN」、八代亜紀の「舟歌」、さだまさしの「関白宣言」、松坂慶子の「愛の水中花」、ゴダイゴの「銀河鉄道999」、海援隊の「贈る言葉」、ロス・インディス&シルビアの「別れても好きな人」、ジュディ・オングの「魅せられて」、小林幸子の「おもいで酒」など数えきれない。そのなかでも「SACHIKO」は、リリース3ケ月後の12月にTBSテレビの「ザ・ベストテン」に8位で初登場すると、翌年1月に最高位2位まで上昇し、9週間連続ランクインするほど健闘した。ばんば自身にとっても自己最大のヒット曲である。

 
 この曲の4年前に「バンバン」は「『いちご白書』をもう一度」でブレイクした。ばんばは、立命館大学の学生時代からロックバンドを結成した。時あたかも学生運動の真っ只中で、授業もなく音楽三昧の毎日。そのうちロックよりフォークのほうが女の子にモテるからと、フォークに転向したとか。同じころ神戸で活動していた谷村新司が東京進出して音楽事務所を立ち上げるという話に感化され、ばんばも1971年高山巌、今井ひろしと「バンバン」を結成し上京した。1972年5月「何もしないで」をリリースし、続けて「こころの花」「永すぎた春」「冬木立」とリリースしたが、ヒット曲もないまま時は流れた。当時「ルージューの伝言」がヒットしていた荒井由実(ユーミン)の才能に惚れ込んだばんばは、伝手を頼って荒井に楽曲の提供を依頼。できあがったのが「『いちご白書』をもう一度」で、20歳のユーミンにとっても他のアーティストに提供した初めての楽曲だった。学生運動の終焉と就職していく若者の気持ちを歌った歌詞は、戦後の復興から高度成長を遂げ、「これからどこに向かうのか」と時代の変化に戸惑う多くの日本人の心とも重なった。レコード発売前、ラジオ番組で初めてオンエアされると、翌週リクエストはがきが段ボール箱いっぱいに寄せられ、その多さにばんばも驚いたという。


1 2

新着記事

  • 2025.12.04
    日本男子バレーのスタープレーヤー、石川祐希選手の活...

    石川祐希選手の睡眠の秘密

  • 2025.12.04
    森美術館が凄いことになっている!現代アートの21組...

    12月3日~3月29日

  • 2025.12.02
    一見の価値あり、スイス人写真家が撮った占領下の日本...

    12月5日~3月3日

  • 2025.12.01
    【コモレバWEBマガジン・読者参加イベント】『私を...

    2026年1月23日(金)

  • 2025.12.01
    第38回【キジュを超えて】今、会いたい人─萩原 朔...

    文=萩原朔美

  • 2025.11.28
    今年の冬の思い出づくりは「箱根で過ごす」、いつもよ...

    冬の箱根のお楽しみ

  • 2025.11.28
    世界の玄関というべき「成田空港の京成」と「羽田空港...

    12月1日~3月1日

  • 2025.11.28
    第17回『東宝映画スタア☆パレード』岡田茉莉子&有...

    文=高田雅彦

  • 2025.11.27
    岩下志麻、周防正行、草刈民代、是枝裕和ら豪華ゲスト...

    12月14日、15日

  • 2025.11.27
    第67回【萩原朔美 スマホ散歩】 孤影悄然として佇...

    取り残された自販機

映画は死なず

特集 special feature  »

<特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

特集 <特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松宗雄が語る誕生秘話〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

特集 松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松...

〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!