22.09.16 update

幅広く知識を吸収できる博物館を訪ねてみれば……

2013年7月1日号「街へ出よう」より


文化、科学、文学、技術、交通に関するものや趣味の収集品としても
身近な切手、カメラ、カバンなどなど、その分野について、
幅広く知識を吸収できる工夫がされている博物館。
それぞれの歴史や最新情報など思わぬ発見ができる場所。
夏休みには子供たちの好奇心をそそる企画も盛り込まれ、
親子で、はたまた孫と一緒に出かけてみるのもおもしろい。

博物館の楽しみ

~工夫された専門知識収集の場~

文・太田和彦


木箱ラジオの放送を家族で聞いた記憶が今、よみがえる


 まだ幼いころ、箪笥の上に置いた木箱ラジオから歌が聞こえた。
  朝はどこから 来るかしら
  あの空超えて 雲超えて
  光の国から  来るかしら
  いえいえそうでは ありませぬ
  それは希望の 家庭から
  朝が来る来る 朝が来る
  『おはよう』『おはよう』


 この歌詞は資料を見ないで書けた。恐ろしきは子供の記憶。もちろんすらすらと歌え、前奏メロディもハミングできる。安西愛子と岡本敦郎のはつらつとした声も覚えている。放送した「ラジオ歌謡」は新しい国民歌謡を提唱するNHKの番組で、戦後のスタートは昭和21年5月1日。私は同年3月3日生まれ。この曲「朝はどこから」は放送第二回の新曲。生後数ケ月もしない子供が憶えるわけはなく、おそらくその後の再放送を聞いたのだと思う。
 私はなんと良い歌で、歌の記憶をスタートしたのだろう。外地で苦労した父は、信州松本での戦後の新生活出発に張りきり、食糧もない貧苦のなかでラジオを買い、早起きした一家は放送を聞きながら朝の支度をした。ラジオから流れるすべての放送が、今から我々が新しい日本を、民主的な国を作るのだという希望に溢れていた。歌の通り、朝は希望の家庭からやって来たのだった。
 放送は明るい内容ばかりではない。夕方の番組「尋ね人」の「尋ね人の時間です」という陰気な出だしの声を憶えている。〈○ ○ 方面第○○連隊にいた△△さん、または△△さんをご存知の方は、日本放送協会までご連絡ください〉。淡々とした声を聞くたびに、北京の日本人収容所で私を生んだばかりの家族が、引揚船で生きて日本に帰れたことをかみしめた。
 ラジオの前で一家が声をあげて大笑いしたこともよくあった。テンテケテンの寄席太鼓で始まる「ラジオ寄席」。
「柳亭痴楽はいい男、鶴田浩二や錦之助、それよりぐーんといい男」
 当時人気の落語家・柳亭痴楽の十八番「痴楽青春手帳」をお調子に乗って真似する私を、たまの酒に一杯機嫌の父は笑い、つられて母も笑った。ラジオの鳴るときはいつも幸福だった。

1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.03
    きわどい熟年女性の性愛表現から母の優しさまでフラン...

    『山逢いのホテルで』見どころ

  • 2024.12.03
    東京ステーションギャラリー「生誕120年 宮脇綾子...

    応募〆切: 1月20日(月)

  • 2024.12.02
    橋幸夫・舟木一夫・西郷輝彦・三田明の青春歌謡四天王...

    松竹青春歌謡映画のヒロイン 尾崎奈々

  • 2024.12.02
    大注目のボートレーサーが集結した「2025年 BO...

    応募〆切:12月20日(金)

  • 2024.11.28
    第5回【東宝映画スタア☆パレード】酒井和歌子&内藤...

    文=高田雅彦

  • 2024.11.28
    クリスタルキングが歌唱した「大都会」の唯一無二のハ...

    クリスタルキング「大都会」

  • 2024.11.27
    第55回【萩原朔美 スマホ散歩】いまどきのカバン考...

    見事な自己表現!

  • 2024.11.25
    クリスマス・イブに手塚治虫の歴史的名作が蘇る!映画...

    応募〆切:12月15日(日)

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!