ラッキーだったバス会社勤務
─― でも出縄管区長は箱根登山バスにもいらしたのが、ラッキーでしたね。
出縄 2018年の4月に管区長になりましたが、その前は箱根登山バスにいました。キャリアとしてはバスのほうが長いので、こちらからバスに要望したいことは山ほどありましたが、混乱している状況が目に浮かびましたので、まだ動けないだろうなと思いながら、内々に連絡は取っていました。バスのほうも、急遽ダイヤを組み直すために、三日三晩寝ないでダイヤを組んでいるということも聞いていました。
─― 電車の運転士さんもバスの誘導をされていたようですね。
出縄 現在もバス停に立っているのは、駅の係員と鉄道の乗務員です。電車が動かないとなると乗務員は仕事がなくなります。では何をするかというと我々のヘルプに入ってもらうしかない。小田原と箱根湯本間は普通に電車が走っており、ロマンスカーも走っています。代替バスを利用されるお客様のすべてを私たち駅の者だけで対応できるかというと、それは到底無理ですので、乗務員の力を借りざる得ない状態でした。
─― まさかこんな状況になるとは思いませんでしょう。混乱の中で心の支えになったのは。
出縄 鉄道とバスは分かれて久しいですが、元々同じ会社です。バスでしか輸送手段がないということで、バスの係員の力を借りつつ、駅の係員、乗務員一体となってバスでの輸送でお客様を呼ぼうという使命感で一体になれたということが収穫ですね。
─― 登山電車が好きで、運転士になったのに、「なぜバスなんだ」というような思いもあったのでは。
出縄 私の立場として一番大切だったのは、皆のモチベーションです。鉄道が好きで入社してきた社員は少なからずいます。それなのに鉄道の仕事ができない、なんでバスの仕事をしているんだと思う社員もいるかも知れませんから、そういう社員のモチベーションを何とか保つことでした。
─― 有事の時は、頼れるリーダーが必要です。
出縄 幸いなことにこの職場には、私のようにバスを経験している人間が複数いたことです。管理者でもいます。そういった彼らのような力が非常に大きかったです。自分一人ではできないことをフォローしてくれました。そこが大きかったです。
─― 試運転も始まり、予定よりも早く再開のめどが立ちました。
出縄 やっと先が見えてきたという感じです。朝礼で一日の指示事項の他に3分くらいで私の気持ちを述べますが、12日という日が節目になっていて、今日でちょうど何か月経ったとあえて伝えます。月日の経過とともに作業も進んでいるということを伝えたいのです。現在は新型コロナウイルスの外出自粛期間と復旧工事が重なっていますが、復旧後のコロナ対策が今後の課題です。