23.08.01 update

東宝青春映画で野性的な風貌と男くささという魅力を放った 俳優・黒沢年男

 黒沢年男のギラギラとした感じがさらに濃厚に映ったのが、『俺たちの荒野』だった。渡米を夢見て、バーのホステスと同棲しながら、昼は米軍基地、夜はバーテンと、精力的に働いている青年・哲也が黒沢年男。共に集団就職で上京した仲間で、基地のわきの小さな荒地に自分の城を建てる夢を持つ純朴な青年・純を演じるのは東山敬司。東山は、黒沢が主演した『燃えろ!青春』のテレビ版とも言える、東宝の学園シリーズドラマ「炎の青春」で主役の型破りな新米教師を演じた。加山雄三からバトンタッチされ、〝二代目若大将〟となる大矢茂と共に、東宝売り出しの青春スターだった。純は、僕の中では純朴というより、さらにイノセントなキャラとして刷り込まれている。その荒地で知り合うのが、両親がいなくても、かいがいしく甥の世話を焼いている、酒井和歌子演じる由希。

 2人の青年が同時に1人の女性と恋に落ちるフランソワ・トリュフォーの『突然炎のごとく』を思わせる内容かと思いきや、ジャンヌ・モローの奔放で開放的なキャラクターの魅力と、酒井和歌子のキャラクター設定はまったく別のもので、いささか消化不良気味ではあったが、ラストシーンを思い浮かべるとき、今でも僕は同時に『突然炎のごとく』を思い出してしまう。この作品は『めぐりあい』より、さらに汗臭い、激しい、バイオレンス色が濃い、やはり、それまでの山手風の清純路線とは、まったく趣を異にする青春映画であり、黒沢年男の魅力が、黒沢のいずれの出演作品よりも、鮮明に僕の映画史に刻み込まれている。70年代を目前に控えた時代の流れの中で、東宝青春映画に変化の兆しが出てきた作品として思い出される2作品である。

 また、黒沢年男はテレビドラマにも数多く出演している。愛川欽也の考古学者と黒沢演じる単純で短気な警部補との迷(?)コンビが好評で、「……殺し」シリーズとして何作も作られている2時間ドラマ「考古学者シリーズ」、「草燃える」「八代将軍吉宗」「葵 徳川三代」といった大河ドラマ、日本テレビ開局20周年記念ドラマ「水滸伝」、小林桂樹が主人公を演じた倉本聰脚本のNHK「赤ひげ」、74年から75年にTBS系で放送された「日本沈没」、「ザ・ハングマンシリーズ」などでさまざまな表情を見せている。

 中でも懐かしく思い出されるのは主役を演じた68年のTBS系の連続ドラマ「オレと彼女」だ。相手役は、当時吉永小百合と人気を二分していた栗原小巻。小百合ファンの〝サユリスト〟に対して小巻ファンは〝コマキスト〟と呼ばれていた。柏木由紀子、小山ルミといった当時の人気若手女優や笠智衆、落語家の三遊亭円生も出演していた。17代続く浅草の古い暖簾を誇る寿司屋の息子ながら、海底牧場を造るという壮大な夢を持つ男で、陽に焼けた精悍な顔の黒沢年男のキャラにぴったりで、カッコよかった。主題歌を歌っていたのは当時大人気のピンキーとキラーズだった。

 また、69年に日本テレビ系で放送された連続ドラマ「おやじとオレと」で演じた熱血漢の青年医師役も忘れ難い。おやじを演じたのは加東大介。

 歌手としても、75年には「やすらぎ」をヒットさせ、78年のなかにし礼作詞・作曲による「時には娼婦のように」は大ヒットとなった。現在も、歌手活動を続けている。黒沢年男のキャリアを振り返ってみたとき、60年代後期の邦画、テレビドラマの数々が僕の中にノスタルジーとしてよみがえってくるのである。そして、その中には俳優・黒沢年男が確かに存在していた。

文=渋村 徹


※プロマイドの老舗・マルベル堂では、原紙をブロマイド、写真にした製品を「プロマイド」と呼称しています。ここではマルベル堂に準じてプロマイドと呼ぶことにします。

マルベル堂
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。2021年には創業100年を迎えた。ちなみにマルベル堂のプロマイド第一号は、松竹蒲田のスター女優だった栗島すみ子。昭和のプロマイド全盛期には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ選手まで2,500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85,000版を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。

マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真に遺影撮影など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが<マルベル80’S>で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F

読者の皆様へ
あなたが心をときめかせ、夢中になった、プロマイドを買うほどに熱中した昭和の俳優や歌手を教えてください。コメントを添えていただけますと嬉しいです。もちろん、ここでご紹介するスターたちに対するコメントも大歓迎です。

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