20.12.07 update

クラウドファンディングで届いた映画を愛する人々の熱い想い


映画館も一時は客が戻ったように見受けられたが10月中旬くらいから、客が再び減りつつある。そして今第三波とも呼ばれるこれまで以上の大きなコロナのうねりが押し寄せてきているなか、芸術、文化発信の最前線にいる人々が、どのように難局に向き合い、今後のありようを模索し、苦境を脱しようとしているのか、現場の声に耳を傾けてみる。

Vol.8

久保田芳未さん(ギンレイホール支配人)

インタビュー:2020年11月25日

支配人の久保田芳未さん。現在もまだ先が見えない状況の中で、「思いっきり大声で笑ったり泣いたりして、心から楽しんで、もっともっと映画を観ていただけるよう、気を引き締め直してスタッフ一同、精一杯頑張っています」と奮闘努力の日々を過ごしている。
2019年の外観。3月22日と23日に開催の「黒沢清オールナイト」の告知がなされている。本年『スパイの妻<劇場版>』でのヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞が大きな話題となった黒沢清監督の『岸辺の旅』など3本の上映の他、監督と映画評論家松崎建夫さんのトークショーも実施された。入口の写真は2015年1月の撮影。

飯田橋の名画座ギンレイホールの前身は、<神楽坂銀鈴座>という松竹系の封切館だったが、1958年(昭和33年)12月の火災で全焼し、60年に5階建ての銀鈴会館ビルが再建され、289席を備えた<銀鈴ホール>が誕生し、74年に現在のスタイルの名画座となり、名称もカタカナの<ギンレイホール>となった。名画座と言っても比較的新しい準新作映画を毎日2本立てで上映している。本年は再建した<銀鈴ホール>から数えて60周年というメモリアルイヤーだった。現在の館主は加藤忠さんで、96年からギンレイホールの経営を引き継いでいる。支配人の久保田芳未さんがギンレイホールに関わるようになったのは2012年のこと。前任の支配人が高齢ということで、ご縁があった館主の加藤さんより、いきなり久保田さんに支配人としてのお誘いがあった。映画館勤務の経験もないため、当初は申し出を固辞していた久保田さんだったが、結局引き受けることになった。そして、支配人となって9年目の本年、新型コロナウイルス問題という想像を絶する難局に直面することになった。久保田さんは支配人としてこの難局にどのように対峙したのか、そしてギンレイホールはいかにして再開の日を迎えることができたのか、そして第三波とも言われる感染拡大の日々が続く現在、ギンレイホールはどのようにお客様を迎えているのか、支配人・久保田芳未さんの声をお届けする。


以前から常備していた消毒液が
入手しにくくなり、危機感を強めました

――2月中旬くらいから客数が減り、3月に入るとさらに少なくなってきたということですが、支配人としてはかなりのご苦労があったのではと推察いたしますが。

久保田 支配人という仕事は配給会社と交渉したり、スタッフをまとめたり、お客様のお世話をしたりとかプロデューサーのような仕事に似ているかもしれません。映画は〝水モノ〟とはよく言われることですが、当館はロードショー館ではなく、すでに封切されていて、ある程度観客の動員数や作品への評価などもわかっている映画を上映する、いわゆる〝二番館〟のような名画座ですが、支配人としての立場で私が観て、評判のいい映画を総合的な判断のもとで上映しても、思った通りの結果を得られるとは限りませんし、逆に、ロードショーでは早めに打ち切られた映画が、当館では思わぬヒットに結びつくという例もありますので、必ずしも定石通りにはいかないという難しさは常に実感しています。新型コロナウイルス問題に関しましては、クルーズ船で感染が広まり日本でも死者が出たという1月下旬くらいからかなりの危機感は抱いていました。新型コロナウイルス問題以前から毎朝座席の消毒などは実施しており、お手洗いなどでもお客様用に消毒液などは備えていましたが、毎朝の検温、手洗い、うがい、消毒などスタッフの健康管理はいち早く徹底させるようにしました。ゴミの扱いなども必ず手袋をするなど社内的にできるところから始めました。ただ、それまで普通に買えていた消毒液がどんどん入手しにくくなっていき、値段も上がっていくのを見たとき、これまで以上に早め早めの対策に着手しないと大変なことになりそうだという危機感を強く感じるようになりましたね。

――4月8日から休館をなさるわけですが、1日も休まないという映画館を休館にするということには、映画館生き残りの死活問題に関わってくるという緊迫感があったと思いますが。

久保田 緊急事態宣言発出以前から週末や夜間の外出自粛などの要請がありましたが、その時点で休業はせず、週末の夜の回の上映を中止にしたり、土日はアルバイトの方々には出勤を控えていただき、社員だけで対応するなど対策をとっていました。でもその頃から近い将来、休館ということになるだろうという予測と覚悟は、館主共々しておりました。結局4月8日から6月5日まで、完全休館でした。

――休館の期間はどのように過ごされ、一番心を痛められたことは何でしたか。

久保田 まず、アルバイトの方々には休んでいただき、社員は交替で勤務をし、電話の対応や、映写機も電源を入れないで動かさないというわけにはいかないのでメンテナンスにも努め、いつでも再開できるように館内の換気を日々行うとか日常の最低限のことをやっていました。また、いつまで続くか先の見えない状況下で、一度緊急事態宣言の期間も延びましたよね。その間の、さらに言えばその先の運転資金だったり、手当てだったりということを考えるのは急務でした。

1996年から館主を務める加藤忠さん。経営を引き継いだ当時は、銀座の名画座<並木座>の閉館など、単館系の映画館は厳しい状況におかれていた。加藤さんは、劇場内を改装し、映写機も全自動式に入れ替え、さらに年間パスポート制の会員システムの導入など、魅力的な名画座作りに心血を注いだ。加藤さんの行動の原動力は、映画館に対するロマンである。
現在のスタイルの名画座となり、カタカナ表記の<ギンレイホール>になった1974年当時の外観。『フレンチ・コネクション』『夜の訪問者』『リスボン特急』『さらば友よ』『男と女』『個人教授』『俺たちに明日はない』『明日に向って撃て!』の上映ラインアップが懐かしい。
<銀鈴ホール>時代の客席数は289席だったが、その後の改装やサイレント映画で使用するピアノを備えたこともあり現在は198席で、大声を発することのない映画館の場合満席状態も許されているが、ギンレイホールではあえて7割弱の入場者数に留めている。ギンレイホールでは当分、この状態を維持する予定である。白いカバーの客席は2002年8月に、現在の赤い椅子に入れ替わった。単に椅子を交換しただけでなく、新しい椅子の配置に合わせてコンクリート床の階段まで造り直すおおがかりな工事が行われた。その後、センターブロックの後ろ半分の椅子を千鳥配置に改修して、現在にいたっている。

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映画は死なず

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