歌う側と聴く側に距離がない
コンサートのいい景色

コロナ禍ということで、昨年、今年と、以前ほどコンサートを開催することはできていないが、それまでの舟木一夫のコンサートの年間動員数は約30万人と聞く。「こんなに歌が好きだったのか」と思ったのは60代半ばだと言う。現在も、ある時代、共に青春を過ごしてきた人たちに向き合って歌うことを大切にと心得、ステージに立つ。役者には、その年齢、年齢に相応しい役というものがある。まあ、70歳の役者が10代の頃に演じた役を演じることはない。だが、70歳を過ぎても舟木のコンサートから「高校三年生」をはずすことはできない。70歳の舟木が「高校三年生」を歌うことに何の違和感もない。それどころか、「高校三年生」が歌われない舟木のコンサートは考えられない。
「流行歌手というのは、世代色が強いと思うんです。お客様が「高校三年生」だとか、「学園広場」だとか、「高原のお嬢さん」や「絶唱」であるというようなところに、ご自分の青春を重ねていらっしゃるという部分が多いとしたら、やはりそこははずせないんです」と言う通り、シアターコンサートでは、客が待ち望む、あの歌が必ず組み込まれている。
そして、昼と夜の曲目の構成が違うということで、舟木一夫特別公演の客は、昼の部、夜の部と2回劇場に足を運ぶ人が多い。まだ、オリコンなんていうものも存在しない時代、それでもテレビ各局には、ランキング番組というものがあって、昭和40年代前半、舟木は毎週のように各局のベストテン番組に出演していた。「北国の街」「太陽にヤァ!」「夕笛」「夏子の季節」「あいつと私」「哀愁の夜」……ヒット曲も数多い。だから、メドレーで聞かせるヒットナンバーは、少しでも多くの曲を聴きたい客にはありがたい。
このメドレーにはもう一つの大きな意味がある。メドレーが始まるや客は、花束や思い思いのプレゼントを手にステージへと駆け寄るのだ。客にとって、待ちわびた〝青春のアイドルスター舟木一夫〟とのコミュニケーションタイムなのだ。
「僕らの世代の流行歌のライブの風景の一つであり、流行歌はこういう空気を保っていかなければだめだと思うんです。歌う側と聴く側に距離がない、いい景色」と舟木自身も言う、舟木のコンサートではおなじみのシーンだが、おそらく、今回のシアターコンサートでは、まだ以前のようにはできないだろう。
「こちら側がいろんな制限などの条件を意識し過ぎることで、お客様が違和感を持たれるようになって、いつものように楽しみたいというお客様の思いを削がないようにさえしなければ、お客様と流行歌手・舟木一夫の距離はいつもの通りで、いままで通り楽しんでいただけると思います」と舟木と客との信頼関係は揺るがない。