芸能生活52年、作品を味わう楽しさという境地で再演舞台『黄昏』に臨む 高橋惠子

シリーズ インタビュー
PEOPLE frontline
 
Vol.2

高橋惠子


高橋惠子さんに弊誌「コモ・レ・バ?」に初めて出ていただいたのは、
ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の舞台『陥没』の出演を控えた2016年だった。
当時61歳の高橋惠子さんは、映画、テレビなど映像作品に加えて
大劇場から小劇場まで年に何本もの舞台作品にも意欲的に出演していた。
古典的な名作舞台から気鋭の劇作家や演出家の舞台、翻訳劇などジャンルもさまざま。
67歳になった現在も、そのペースは変わらない。
ただ、6年前と現在では、舞台に向き合う心持に変化がみられるようだ。
インタビュー当日は、6月に開幕した舞台『黄昏』の稽古の真っ最中。
2020年に出演した作品で、2年ぶりの再演である。
いよいよ通し稽古に入るという高橋惠子さんに、舞台『黄昏』への思い、
そして、デビューから52年を迎えた俳優としての現在の境地をうかがった。

文=二見屋良樹 撮影=福山楡青


 アメリカ・メイン州の美しい湖ゴールデン・ポンドの湖畔の別荘で48回目の夏を過ごす79歳の夫ノーマンと10歳年下の妻エセルの老夫婦。そこにかつての確執から疎遠だった娘チェルシーが8年ぶりに、新たな恋人ビルとビルの13歳の息子ビリーを連れて訪れる。美しい自然に囲まれた別荘でのひと夏の日々の中で、父娘が改めて歩み寄り、家族の交流などを通して、それぞれに家族の絆を探す優しい物語『黄昏』。

 1978年にニューヨークで初演された舞台で、81年には、ヘンリー・フォンダ、キャサリン・ヘプバーン、ジェーン・フォンダの共演で映画化され、ヘンリー・フォンダとキャサリン・ヘプバーンは共にアカデミー賞主演男優賞、女優賞を受賞し、ゴールデングローブ賞の作品賞にも輝いた名作である。今回、高橋惠子さんが演じるのは、映画でキャサリン・ヘプバーンが演じた、妻エセルである。


「8年ぶりに会う娘との確執、80歳を迎える夫の体調の心配もあったりという中で、父と娘との関係や娘の恋人と父親のどこかぎこちなさ、13歳の少年と老夫婦の心の交流など、ゆったりとした時間の中で、登場人物たちそれぞれの心の歩み寄りが描かれる、家族の絆というものを探す物語。別荘でのひと夏という設定の中で、人の心の深いところにある繊細な部分が描かれていて、2年前に出演した折にも、俳優としても舞台作品としての魅力を味わうことができました」

 登場人物は、老夫婦のもとに郵便物を届けに訪れる郵便配達員チャーリーを含めて6人だけ。ひと夏、別荘の一室、登場人物6人、そんな限られた設定は、人の心を浮かび上がらせる芝居を効果的に見せてくれるに違いない。

「夫婦が48年間毎夏訪れている美しい自然に囲まれた愛すべき場所で、家族の物語が展開されるというのも、そんな愛しい場所だからこそ、それぞれの心に動きが出てくるのではないかと思えるんです。演じていても、セリフで表現するだけでなく、エセルの心の変化みたいなものが、私自身の中にも自然と芽生えてくることが稽古を重ねながら実感することができて、再び、この作品世界の住人になれることを、とても嬉しく稽古に臨んでいます」

 というように、高橋惠子がエセルと向き合うのは、2020年以来2度めである。ノーマン役の文学座の石田圭祐、チェルシー役のミュージカルからストレートプレイまでジャンルを超えた舞台で高い評価を受けている瀬奈じゅん、映像作品だけでなく、舞台にも意欲的に出演しているビル役の松村雄基、チャーリー役の文学座の石橋徹郎と、高橋だけでなく、ビリー少年役以外のキャストは2年前と同じメンバーである。今回、ビリーを演じるのは、ジャニーズJr.として多数のステージで活躍している林蓮音。ジャニーズ以外の舞台は今回が初めてとなる。


 再演では新たな発見がある、との俳優たちの言葉をよく耳にするが、高橋惠子の中にも新たな発見があるようだ。それは目に見えるものではないかもしれないが、役を演じる上で、セリフを言う上で、高橋惠子だけが発見する自身の気持の変化である。この目に見えない発見が、実は、観客に大きな感動として届けられるのかもしれない。

「今思えば、2年前は、動きとセリフで必死だったような気がしています。今回稽古を重ねる中で、48年間毎夏この別荘を訪れている夫婦の情愛ですとか、娘と父親の間をなんとかとりもとうとするエセルの気持とか、娘が新しいパートナーと幸せになっていくことに対しての思いとかというところで、当時、深い部分までは感じとれていなかったエセルの気持に、日々の稽古の中での気づきがあり、私自身がエセルと重なっていくような感覚にとらわれています。その瞬間というのは、やはり俳優にとっては醍醐味かもしれません」

 また「前回ご一緒した俳優さんたちと、再び演じられる楽しみというのか、一緒にやっていたからこその信頼関係という絆で、役に対するそれぞれの思いを遠慮なくぶつけ合うことができ、結集力といいますか、さらに前回よりいいものを創り上げようという同志のような意識が高まっていて、そこにも再演の良さがあるのではないかと感じます。稽古場の雰囲気もいいですね」と稽古の充実ぶりを語る。

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