22.06.07 update

芸能生活52年、作品を味わう楽しさという境地で再演舞台『黄昏』に臨む 高橋惠子

 映画やテレビドラマに出演しつつ、精力的に舞台にも立ち続ける高橋惠子。この8か月間でも、初のミュージカル主演『HOPE』、舟木一夫共演の『壬生義士伝』、フネさんを演じた『サザエさん』の再演と、かなりのスケジュールで舞台作品に出演している。

「映画やテレビドラマには映像作品ならではの面白さがありますが、舞台にひかれるのは、幕が開いて幕が下り、その日の終止符が打たれる。それが私にとっての舞台の魅力の一つでもありますね。そこで一回忘れて、翌日にはまた新たな気持で、舞台に立っているような気がします。舞台って稽古期間が長いんですが、そこであれこれと役を掘り下げるなど試行錯誤を繰り返し初日を迎えます。もちろん実際の公演の中から新しいものが生まれてきたりもしますが、一旦、公演の幕が開けると、その都度一回一回終わっていく感じが好きなのかもしれません」

 そう言えば、昨年12月の新橋演舞場での舞台『壬生義士伝』で共演した舟木一夫が、俳優・高橋惠子について、「一つの役が終わると一旦、〝素〟の高橋惠子に戻って、そこからまた、新たな役に臨んでいるように見受けられる」と言っていたことが思い出される。「舟木さんも素敵な方でいろんなことを教わりました。それにしても、よく見ていらっしゃいますね、本当にそうなんです。私、終わったら全部忘れてしまうんです、その役を。そこから一旦自分に戻ってまた新たな役に入り込むという感じなんです」

 今回は東京公演以外にも大阪、兵庫、石川、愛知、長野での公演もある。

「地方によって気質が違うのですね。お客様の反応も、たとえば、関西と東北ではまったく違いますね。関西のお客様は感じたことをそのままダイレクトに表に出すという感じで、当意即妙の反応も俳優としては嬉しい限りですが、東北で公演したときに、あまりにも客席が静かで、大丈夫かな、みなさん楽しんでいただけているのかなと思っていたら、芝居が終わりカーテンコールの幕が上がったときに、すごい拍手喝采で、これもまた感動でした。そういう意味で地方での公演は、東京での舞台では味わえない楽しさがありますね。それにその土地ならではの美味しいものをいただけるというのも、旅公演の楽しさでもありますが、今回はまだ、その楽しみは味わえないかもしれませんね」

 俳優デビューから52年、半世紀以上という長期間にわたって俳優という同じ仕事に従事し、しかも、映画、テレビドラマ、舞台とそれぞれのフィールドの第一線で活躍を続ける高橋惠子さん。俳優という仕事の魅力を、高橋さんは今、どうとらえているのだろうか。

「同じことがないということでしょうか。作品によってスタッフ、キャストなど集まる人も違うし、毎回違う感覚なんです。加えて、半世紀以上続けてこられたというのは、ちゃんとできたという実感がないから、というのも一つですね。まだまだという気持があるから、その先を求めて進むことができたのかもしれません。それにマンネリということがない仕事だとも感じています。それが楽しいのかもしれません。でもやはり、人と人とのふれあいによって作品を生み出す楽しさ、いいものを作るという志を同じにする仲間たちとの共同作業が好きなのかもしれません」

 次回作をいつも楽しみにさせてくれる俳優・高橋惠子。この先、70代、80代と年齢を重ねたとき、俳優・高橋惠子は、どのような境地で作品と向き合い、どんな色彩の芝居を見せてくれるのだろう。高橋惠子もまた、〝生涯俳優〟という宿命をすでに背負っている俳優だった。


たかはし けいこ
女優。1955年北海道生まれ。1970年、関根恵子の芸名で映画『高校生ブルース』で主演デビュー。82年に映画『TATTOO<刺青>あり』で映画監督の高橋伴明と知り合い結婚、高橋惠子と改名した。舞台、映画、テレビドラマの第一線で活躍を続け、舞台『雁の寺』『藪の中』で読売演劇大賞優秀女優賞、『山ほととぎすほしいまま』『藪原検校』『ハムレット』で毎日舞台芸術賞の秋元松代賞、映画『ふみ子の海』で毎日映画コンクールと日本映画批評家大賞の助演女優賞、2010年には毎日映画コンクール田中絹代賞を受賞している。その他にも映画『遊び』『朝やけの詩』『神田川』『青春の門』『魔性の夏』『ラブレター』『恋文』『花物語』『禅 ZEN』『二流小説家 シリアリスト』『四月の永い夢』、舞台『近松心中物語』『近代能楽集 弱法師』『新・地獄変』『マクベス』『初蕾』『子午線の祀り』『死の棘』『天保十二年のシェイクスピア』『キル』『細雪』『ガブリエル シャネル』『黴菌』『日本橋』『おどくみ』『マイ・フェア・レディ』『陥没』『危険な関係』『サザエさん』『HOPE』、テレビドラマもNHK大河ドラマ「徳川家康」「信長 KING OF ZIPANGU」「葵 徳川三代」「武蔵 MUSASHI」をはじめ「新・だいこんの花」「太陽にほえろ」「北越誌」「鏡の中の女」「青銅の花びら」「女の旅」「金曜日の妻たちへⅡ 男たちよ、元気かい?」「宮本武蔵」「避暑地の猫」「過ぎし日のセレナーデ」「勝海舟」「新幹線をつくった男たち」「古都」「赤い疑惑」「魂萌え!」「結婚」「彼らを見ればわかること」など多数の出演作がある。

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