24.04.03 update

【インタビュー】若村麻由美 世界的に注目されるゼレールの〝家族3部作〟すべてに出演できることは俳優冥利に尽きる喜びです。そして、2作同時上演という俳優人生初の体験に心が躍ります。

若村麻由美さんの俳優キャリアは、仲代達矢さんが夫人の故・宮崎恭子さんと共に主宰した無名塾からスタートした。
無名塾の養成期間中の1987年に、NHKの連続テレビ小説「はっさい先生」のヒロインに選出され、
その後、数々のテレビドラマや映画で、俳優として確かな足跡を残してきた。
昨年放送された主演ドラマ「この素晴らしき世界」で演じた2役も記憶に新しい。
同時に幅広いジャンルの舞台にも意欲的に出演を続けており、数々の受賞歴がある。

そして、この4月新たな主演舞台『La Mère 母』が上演される。
世界の演劇界から注目されているフランスの劇作家フロリアン・ゼレールの〝家族3部作〟の1作であり、今回が日本初演となる。
2019年には『Le Père 父』、21年には『Le Fils 息子』が日本で上演されており、
若村さんは、そのいずれにも出演しており、本作の主演をもって、
3部作すべてにアンヌ役で出演する世界でただ一人の俳優ということになる。しかも、今回は同時に『Le Fils 息子』も上演され、こちらにも出演する。
同時に2作品に出演するという俳優人生初体験を控えた若村麻由美さんに、
本作への思い、舞台という仕事の醍醐味を情熱たっぷりに語っていただいた。

取材・文=二見屋良樹 撮影=福山楡青

家族3部作〟すべてでアンヌを演じる世界でただ一人の俳優

  現代のフランス演劇界を牽引する劇作家フロリアン・ゼレールの『La Mère 母』が若村麻由美主演により、ついに日本初演を迎える。『La Mère 母』は『Le Père 父』『Le Fils 息子』と合わせて家族トリロジーとなっており、『Le Père 父』は2019年に、『Le Fils 息子』は2021年にいずれも日本でも上演されている。若村はそのいずれにもアンヌ役で出演しており、『Le Père 父』では、読売演劇大賞優秀女優賞を受賞している。3作品すべてでアンヌ役を演じるのは、世界中の演劇界で若村だけである。
 家族3部作といっても、役名はすべて同じなのだが、それぞれ違う家族の物語である。しかも今回は同時に隣り合わせの劇場で『Le Fils 息子』も上演されるという画期的な試みで、若村は同時に2人のアンヌを演じることになる。

「ゼレールは現代の家族の問題を描いていて、3部作すべてに共通しているのは、特殊なある家族の話ではなく、誰にでもありうるあなたの物語かもしれないということで、タイトルが象徴的に『Le Père 父』『Le Fils 息子』『La Mère 母』となっています。執筆された順番から言いますと、最初が『La Mère 母』、次に『Le Père 父』そして『Le Fils 息子』ということで、ゼレール自身の中の実感のあるものを基にしているので、いずれの作品もものすごくリアリティがあります。フランスの話でありながら、日本人でもとても理解でき、共感できる物語。台本にも役名ではなく、母、父、息子というふうに書かれているところが、まさにこの作品を象徴しているように思えるんです」

 ちなみに3部作いずれも、登場人物の名前はアンヌ、ピエール、ニコラという具合に同じ名前で統一されているが、それぞれ人格も異なる別の家族を描いている。

「父の役割、母の役割、息子の役割というように、登場人物たちはその役割を担った人物として描かれています。登場人物については詳細に描かれていません。つまり、この人物だからという特殊なことではないので、そういう意味では描かれた環境の中で自然に演じると、その人物になるというように書かれています。だから、他の俳優が演じれば違う感じになるのだと思います。そういう戯曲だと思います」

 19年の『Le Père 父』、21年の『Le Fils 息子』に続き今回の『La Mère 母』の演出も手がけるラディスラス・ショラーも、登場人物について詳しく語られていないことにより、観る人が誰でもそこに自分を重ねることができる作品だと言う。そして、ゼレールのセリフはとてもシンプルな言葉を使っていて、それだけにとても演劇的であり、『La Mère 母』にはそんなセリフがたくさんあるとも。ちなみに、今回の若村の主演は、ショラーからの熱いラブ・コールを受けてのことである。

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