和服姿が似合う清楚な旧き良き時代のどこか古風な日本女性のイメージが強い山本陽子(81)さんの訃報が2024年2月22日早朝に届いた。
本誌【2013年7月1日号】では、俳優の辰巳琢郎さんと表紙を飾っていただいた。和服姿が多い山本さんだが、この日は洋装のキリリとしたスタイルで、撮影場所のハイアットリージェンシー東京にお越しいただいた。山本さんと辰巳さんは1990年のNHK朝の連続テレビ小説『京、ふたり』が初共演で唯一の共演作である。
「何だか意外ね、もっとご一緒していると思っていました」と山本さんが言うほど、プライベートでは、デザイナーの芦田淳氏宅でのパーティや年末恒例の麻雀大会など長年交友があった。その親密さは「そういえば、陽子さんの化粧している顔ってあまり見たことないね」という辰巳さんの発言から、推して知るべし。心を許せる「遊べる仲間」の二人である。
この日は懐かしい共演作のこと、山本さんの日活時代の話から、ワインのこと、麻雀のエピソードまで、山本さんの知られざるプロフィールが辰巳さんの話術により、引き出されることになった。「女っぽい顔も絶対あるのに、陽子さんはそんな表情をなかなか見せない」という辰巳さんの山本陽子評は、細やかな気配りの心も備えた、ざっくばらんな性格の「男前」ということだ。
当日山本さんは「もう少し年齢を重ねるとさらに自分に合った役柄に巡り合えるのではないかと思っているんです。今の年齢はどちらかといえば中途半端でその時を待っている状態です」と語った。
辰巳さんは、「昔懐かしい正統派のいい女。淑やかさもあれば、小股の切れ上がった粋も備えたいい女。美しくて近寄りがたいのに、実は男前のいい女。大先輩に対して〝いい女〟なんて失礼かもしれませんが、どこを探してもこんな〝いい女〟はいないんですからお許しください」と語っている。そして、辰巳さんのお気に入りの一本は、橋田壽賀子脚本によるNHK銀河テレビ小説『となりの芝生』のときの山本さんだという。メロドラマのヒロイン的なイメージの強かった美人女優の山本さんが、嫁姑ドラマの走りのような作品で、普通の主婦を演じた。
山本陽子さんは、東京生まれ。1963年に第7期日活ニューフェイスとして映画デビューするが、女優としての資質はむしろテレビで開花し、高視聴率女優として地位を確立した。71年に『放浪記』で初舞台、80年に『花埋み』で舞台初主演。映画『花と怒濤』『花の恋人たち』『青春の鐘』『嵐の勇者たち』『三人の女 夜の蝶』『華麗なる一族』『八つ墓村』『デンデラ』、テレビドラマ「しろばんば」「七人の孫」「光る海」「太郎」「ながい坂」「坊ちゃん」「しがらき物語」「国盗り物語」「白い影」「冬の貝殻」「白い滑走路」「花の生涯」「残りの雪」「亜紀子」「となりの芝生」(テレビ大賞優秀番組賞)「女の橋」「喜びも悲しみも幾歳月」「女の家庭」「日陰の女」「不毛地帯」「彩の女」「女たちの海峡」「松本清張の黒革の手帖」「海よ眠れ」「ひとひらの雪」「お入学」「京、ふたり」「付き馬屋おえん事件帳」「月の船」「徳川慶喜」「聖なる怪物たち」、舞台『放浪記』『絵島の恋』『明治一代女』『生きて行く私』『歌行燈』『或る女』『おはん』(93 年度菊田一夫演劇賞受賞)『新版 香華』『8人の女たち』『阿修羅のごとく』『いろどり橋』(名古屋演劇ペンクラブ賞)、山本陽子芸能生活五十周年記念の一人語り『花埋み』、舞台『あるジーサンに線香を』など多数の出演作がある。山本海苔店との専属CMモデル契約は約57年にわたり、ギネス世界記録に認定されている。
かけがえのない、女優が亡くなってしまったことが残念でたまらない。