私たちが知る「アフロヘア」は、1950年代後半から1960年代にわたるアメリカの公民権運動で、黒人としてのアイデンティティとエンパワーメントの象徴として今日まで広まってきたヘアスタイルである。ラテン語接頭辞の「アフリカ」の意で、広くはアフリカ系を指して「アフロ」と呼び、差別的用語ではない。アメリカ社会の黒人差別を背景としたブラックネス(黒人であること)の集団意識が生み出すアフロ文化と、日本における「民藝運動」という二つの異なる文化を融合させようと試みるシアスター・ゲイツ(1973年~)の日本における初の個展が開催される。
米国シカゴのサウス・サイド地区を拠点として、彫刻と陶芸を中心とした創作から、建築、音楽、パフォーマンス、ファッション、デザイン等々メディアやジャンルを横断する活動で国際的に高く評価されるシアスター・ゲイツは、2004年愛知県常滑市で陶芸を学び、「民藝運動」の哲学と出会う。宗教哲学者だった柳宗悦(1889-1961)は、陶芸家の濱田庄司や河井寛次郎らとともに芸術を哲学的に探求し日用品の美と無名の職人の手仕事の価値を見出した「民藝運動」を展開、今日日本のライフスタイルの中の「美」として定着している。ゲイツは黒人文化と日本文化という二つの異なる文化の融合を「アフロ民藝」と名付けたのである。たとえば、アフリカの工芸品と日本の陶磁器や茶器、香具や酒器などの儀式で使われる道具とを組み合わせることにより、世代を超えて継承される工芸を称賛しつつ、新たな文化的価値を生み出そうとしている。
本展は、この「アフロ民藝」の実験的な試みを軸に、ゲイツの代表作のみならず、新作を含む日本文化と関係の深い作品が紹介される。世界が注目しているブラック・アーティストの多角的な実践を通し、展開されるブラック・アートの魅力を感じ、同時に手仕事への称賛、人種と政治への問いかけ、文化の新たな融合などを謳う現代アートの重要性を実感する機会ともなるはずだ。
森美術館は、現代アートを中心にすえ2003年10月、東京のどこからでも見える六本木ヒルズ森タワー53階に開館。昨年でちょうど開館20周年だが、これまで、アーティストの個展は国内外問わず20回ほど開催、2004年の草間彌生展を皮切りに、ル・コルビュジエ展(07)、小谷元彦展(10)、会田誠展(12)、アンディ・ウォーホル展(14)、リー・ミンウェイ展(14)、村上隆展(15)、N・S・ハルシャ展(17)、レアンドロ・エルリッヒ展(17)、塩田千春展(19)…(一部省略)など絵画、彫刻、映像、インスタレーションやパフォーマンスなど世界の現代アート作家の全貌が分かる展覧会を開催してきた。2024年4月、20年を超え新たな現代アートのステージにふさわしい、日本初のブラック・アーティストの個展が森美術館で開催されることの意義は大きい。
シアスター・ゲイツ略歴
1973年、米国イリノイ州シカゴ生まれ、同地在住。アイオワ州立大学と南アフリカのケープタウン大学で都市デザイン、陶芸、宗教学、視覚芸術を学ぶ。土という素材、客体性(鑑賞者との関係性)、空間と物質性などの視覚芸術理論を用いて、ブラックネス(黒人であること)の複雑さを巧みに表現している。2004年、愛知県常滑市「とこなめ国際やきものホームステイ」(IWCAT)への参加を機に、現在まで20年にわたり常滑市の陶磁器の文化的価値と伝統に敬意と強い関心を持ち、陶芸家や地域の人々と関係を築いてきた。近年の主な個展に、ニュー・ミュージアム(ニューヨーク.2022-2023年 )、サーペンタイン・パビリオン(ロンドン.2022年)、ホワイトチャペル・ギャラリー(ロンドン、2021年)、ウォーカー・アート・センター(ミネアポリス、2019-2020年)、マルティン・グロピウス・バウ(ベルリン、2019年)、パレ・ド・トーキョー (パリ、2019年)、プラダ財団(ミラノ、2018年 )などがある。日本では、国際芸術祭「あいち2022」に出展、2019年には公益財団法人大林財団「都市のヴィジョン」の助成対象者として選出され、国内でリサーチプロジェクトを実施した。
展覧会名 :「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」
主催:森美術館
会期:2024年4月24日 (水)~2024年9月1日(日)
会場:森美術館 (東京都港区六本木6-10-1六本木ヒルズ森タワー53階)
開館時間:10:00-22:00(火曜日のみ17:00まで、ただし4月30日(火)、8月13日(火 )は22:00まで)
*閉館時間の30分前まで *会期中無休