23.05.22 update

第1回 40年前製作発表の前日に高倉健の出演が決まった『南極物語』    

 現在の多くの映画製作にテレビ局が関わる理由は幾つかあるが、やはり自前で、〝作品〟の著作権を持ち、その事業収入を獲得することは大きな目的になっている。
『南極物語』の時代はレンタルビデオ収入等が殆ど無く、映画館でヒットするかどうかだけで、本来は主に配給会社の役割である。やはり地上波の放送を念頭に大ヒットさせ、『キタキツネ物語』の半分の視聴率でも22%以上になるというテレビ局ならではの算段もあっただろう。
 制作にはフジテレビの社員も参加したが、優秀な映画スタッフが結集して、準備や、撮影は行なわれた。企画・シナリオで2年、撮影に2年、映画は時間とお金が掛かることは最初のこの映画の経験で十分に味わうことが出来た。

 1億円のテレビスペシャルなら国内(北海道)だけの撮影で出来たかもしれないが、結局、北極圏(カナダ)から南極での撮影にも挑み、高倉健さんも参加した。
 当初は渡瀬恒彦さんが主演で進んでいたが、実景撮影も一部行なわれていた1982年3月4日、東京プリンスホテルでの製作発表記者会見の前日、高倉健さんから監督への電話があり、正式参加が決まったのである。まさに〝劇的〟〝奇跡的〟という言葉がピッタリだった。

▲ついに訪れた『南極物語』の南極での撮影終了。その瞬間、蔵原惟繕監督と椎塚カメラマンは抱き合って喜び、感動を分かち合っていた。

『南極物語』公開から40年。私もそれから70本以上の映画製作に携わってきたが、スケール感や、撮影の困難さでは、それ以上の経験はしていないと思う。最初に、突然、関わった映画が、その後の大きな指標となった。この映画を生むために、テレビ局が果たした役割は大きいが、本来は映画会社が中心になって製作すべき映画でもあったと、今は考えたりする。
 配給の東宝や日本ヘラルド映画からは多くのことを学んだ。興行のあり方、映画館との向き合い方、そして映画の宣伝とは・・・。

 今は亡き、蔵原惟繕監督にはその後、公私に渡り、仲良くしていただいたが、試写会の挨拶の言葉は今でも印象に残っている。
「最近の映画では『E・T』とか『スター・ウォーズ』といったものが大ヒットしている。『E・T』などのテーマは、異星人との出会い、そこに愛を求めていく。つまり、出口のない状況の中で、人間の救いというものを宇宙的な所へ求めていく~その点がヒットする理由なのだろうと思う。しかし、私たちは地球から抜け出すわけにはいかない。今、生物の生態系がどんどん崩れ、自然が破壊されていると同時に、生物が、その本来のエリアの中で生きていく状況が非常に難しくなっている。そういう中で、〝我々は地球の根っこの話をつくろうじゃないか〟という所から映画『南極物語』は始まりました~」
 40年前の言葉であるが、現在の地球環境問題や、人間、動物との共生など、より今の方が強く、心に刺さる。公開日前日、日比谷映画の劇場入り口が目の前に見える帝国ホテルの部屋を取り、夜明けとともに観客が並び始めたのを見たときの蔵原監督らの感動する姿は忘れられない。

 もし、『キタキツネ物語』が歴代1位の視聴率を獲っていなかったら・・・もし〝高倉健さん〟が出演していなかったら・・・もし、テレビドラマで「タロとジロは生きていた」を先にやっていたら・・・もしフジテレビが新しい体制になっていなかったら・・・今でも「if・・・もしも」と思い起こすことがある。なぜなら、フジテレビが本格的な映画製作参画はほぼ初めての体験で、誰もその結末、結果を予想できなかったからである。やはり、個人としては、最後まで諦めなかった映画部長の存在は大きかったと改めて思う。

 もう一つ、奇跡的と言えば、音楽を創ってくれたヴァンゲリスのことだ。
『炎のランナー』でアカデミー賞作曲賞を獲ったばかりのヴァンゲリスが、日本の映画の劇伴をやってくれるのか? 最初は夢のような話だった。しかも『南極物語』の撮影は既に始まっていた。奇策と見えたが、蔵原監督と貝山知弘プロデューサーは撮りたてのラッシュプリントを抱えてロンドンのスタジオまでヴァンゲリスに会いに行ったのだ。監督らの熱い想いを汲んでくれ、初対面で了解してくれたのだ。出会いと縁である。今でもテーマ曲を聴くたびに、その時の蔵原監督の喜んだ顔を想像してしまう。

▲1982年、ミラノ国際映画祭に出席した折の筆者(右端)。左端は、大島渚監督『戦場のメリークリスマス』や黒澤明監督『乱』など多数の名作のプロデュースで知られる原正人氏。

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