23.05.22 update

第1回 40年前製作発表の前日に高倉健の出演が決まった『南極物語』    

 映画制作においては、新人の自分は教えられることばかりであったが、フジテレビは宣伝や盛り上げる面で貢献しなければならなかった。一方で、製作出資パートナーに学研が入ってくれ、当時の〝学研のおばさん〟の各家庭への訪問力は凄まじいものがあった。勿論、出版社であるので、本の出版や「学習」や「科学」でのパブリシティも大きく展開してくれたが、何より前売りチケットの販売力は強力だった。
 出資比率が半分ずつなので、テレビ局vs出版社の前売り合戦? のようになり、世間の批判も一部にあったが、とにかく『南極物語』を出来るだけ多くの人に劇場に観客として来てもらい、大ヒットさせたい! この思いはこの映画に関わったすべての人の野望になっていった。
 テレビ局の社員としての役割は、配給会社の宣伝部の皆さんと共に、<フジテレビ>をベースとしたテレビ宣伝である。当時はフジテレビ製作映画は他局が一切取り上げない暗黙のルールがあり(他社が製作の場合も同様)、自社と系列局で盛り上げるしかなかったのだ。当時の編成局長にハッパをかけられ、20代の若手によるプロモーション部隊が発足した。何をやっても良い! 責任は自分が取る! の号令の下、映画宣伝経験など皆無のメンバーで連日、議論した。あれから40年。フジテレビは多くのヒット作に恵まれたが、『南極物語』の宣伝のボリュームを越えることはこれからもないであろう。
 5月5日「こどもの日」の番組宣伝は凄まじいというか、個人の見解では、テレビ局としては、やりすぎたと今は思う。朝のワイドショーから、すべてのバラエティ番組に『南極物語』が登場。「笑ってる場合ですよ」などには「タロとジロ」が生出演。アニメ番組にもゴールデンタイムもニュースも〝24時間丸ごと南極物語DAY〟と化した。

▲『南極物語』の主役として日本全国を感動で包んだタロとジロ。映画公開から40年、<4Kデジタルリマスター版>が、CS日本映画専門チャンネルにて6月25日(21:00~)、29日(20:30~)に放送される。


 高倉健さんは宣伝の為の番組出演は1回も無く、共演の渡瀬恒彦さんや夏目雅子さんの出演も無かった。自分達に残されたのはタロジロと、数分の出演しかなかった荻野目慶子さんだった。彼女の真面目な性格に反して、〝楽しくなければテレビじゃない!〟の派手な浴衣姿のキャンペーンガールや、映画のイメージソングまで歌ってもらい、ランキングにインしたせいで他局の歌番組にも「南極物語のイメージソング」で出演してもらった。勿論、フジテレビの「夜のヒットスタジオ」などには多く出演してもらった。
 タロジロにも北海道から沖縄まで、暑い夏のデパートの屋上での「荻野目慶子+タロジロ」ショー等の全国キャンペーンに付き合ってもらった。タロジロの登場シーンで「どうぞ~」と言われて元気が無さそうな時は、申し訳ない気持ちにもなった。
 そのキャンペーンの頃は、フジテレビの視聴率は断トツの1位になり、毎週三冠王が続いていた。この宣伝は一部で〝電波の私物化〟と揶揄されたりもしたが、「好きなテレビ局No1」の中で、絶大な効果を発揮するのである。

▲映画にも出演している荻野目慶子は『南極物語』のイメージソング「愛のオーロラ」も歌っている。作詞は岩谷時子、作曲は林哲司、編曲は萩田光雄が手がけている。なお、『南極物語』には、主演の高倉健の他に、渡瀬恒彦、夏目雅子、岡田英次、神山繫、山村聰らも出演している。

『南極物語』は製作陣の予想をも上回る約1千万人動員を果たし、それまで『影武者』が持っていた配収25億円の日本興行記録を抜き56億円になった(現在は配収では約60億円で興行収入は100億円超)。
 ビギナーズラックという言葉があるが、まさに自分にとっては2年間走り回っていたあとの究極のおまけのような現象だった。
 このヒットにより、映画製作を止める理由が無くなり、その後の40年間、ひたすらテレビ局は映画に様々な形で参画していく。


かわい しんや
1981年慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビジョンに入社。『南極物語』で製作デスク。『チ・ン・ピ・ラ』などで製作補。1987年、『私をスキーに連れてって』でプロデューサーデビューし、ホイチョイムービー3部作をプロデュースする。1987年12月に邦画と洋画を交互に公開する劇場「シネスイッチ銀座」を設立する。『木村家の人びと』(1988)をスタートに7本の邦画の製作と『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)などの単館ヒット作を送り出す。また、自らの入院体験談を映画化した『病院へ行こう』(1990)『病は気から〜病院へ行こう2』(1992)を製作。岩井俊二監督の長編デビュー映画『Love Letter』(1995)から『スワロウテイル』(1996)などをプロデュースする。『リング』『らせん』(1998)などのメジャー作品から、カンヌ国際映画祭コンペティション監督賞を受賞したエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)、短編プロジェクトの『Jam Films』(2002)シリーズをはじめ、数多くの映画を手がける。他に、ベルリン映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』(2009)、ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』(2009)、などがある。2002年より「函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞」の審査員。2012年「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」長編部門審査委員長、2018年より「AIYFF アジア国際青少年映画祭」(韓国・中国・日本)の審査員、芸術監督などを務めている。


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映画は死なず

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