2012年、英国王室の歴史を覆した大事件は、確かに日本へも伝えられた。しかし2022年9月、70年にわたって英国国王に在位したエリザベス女王が96歳で逝去し、壮絶な事故死から四半世紀も経った今なおダイアナ妃の記憶をとどめる中、チャールズ国王の戴冠式を目にし、ヘンリー王子&メーガン妃による暴露報道と英国王室は次々と話題を提供してくれた。それだけに11年前の「500年以上にわたって行方不明だったリチャード三世の遺骨発見!」という大ニュースだったはずの記憶も微かなものになっていたのではないだろうか。
本作は、まさにリチャード三世の遺骨発掘に挑戦した主婦でありアマチュアの歴史家、フィリッパ・ラングレー(サリー・ホーキンス)の驚きの実話である。彼女は夫と別居中で会社員として働きながら二人の息子の母であり、筋痛性脳脊髄炎の持病すら持っていて、そのことで職場でも厚遇されず欝々としていた。ある日、偶然「リチャード三世」の演劇舞台を鑑賞し主演俳優の演技に強く心揺さぶられたことで、翌日からしばしばリチャード三世の幻影と遭遇することになる。フィリッパに霊視・霊能力があるのかどうかはともかくとして、不思議な体験から彼女は一念発起することになる。日本でもシェイクスピアによる戯曲は様々な演出家によって上演されているが、「リチャード三世」が、なぜ悪名高き国王となったのか、幻影を見、深い興味から書物を読み進み、「リチャード三世協会」にも入会し調査研究を進めるほど、フィリッパには最大の疑問がわいてくるのだった。「リチャード三世には墓がなく、彼の亡骸は歴史の中で失われた」と知ると、「私の前にたびたび現れる幻影は、迷子の自分を探してくれと言っているに違いない」と確信し、遺骨発掘という途方もない事業に挑戦することになった。
フィリッパがこのプロジェクトの緒に就いたのが、リチャード三世協会に入会した1998年とすれば、発掘まで約14年の歳月を経ている。この間、様々な難問、ハードルを越えなければならなかったが、スコットランド、レスターの中心部にある社会福祉事務所の駐車場北側の地面にペンキで書かれた〝R〟の文字を見て、彼女は閃くのだった。〝ここ掘れワンワン〟の「花咲か爺」の日本の昔話ではないが、まさにリチャード三世の500年越しの運命は、フィリッパ・ラングレーによって鮮やかに拓かれることになった。
一介の主婦だった彼女がエリザベス二世女王より大英帝国勲章を授与されるほどの難事業と歴史的成果を遂げた感動的な成功物語ではある。しかし、シェイクスピアが植え付けた冷酷非情な王として名高かったリチャード三世の〝真相〟を、ひたむきに追い求め名誉回復させるため奔走する彼女の姿は、世代も性別も越えて多くの人々に勇気を与えてくれるはずである。
『ロスト・キング 500年越しの運命』
9月22日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
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配給:カルチュア・パブリッシャーズ