有色人種VS.白人の人種差別をテーマにしたアメリカ映画は数あれど、この知られざる実話が2022年公開されて間もなく、世界の映画祭では絶賛の嵐が巻き起こっているという。主要60映画祭21部門受賞86受賞部門ノミネートという席巻ぶりで、日本公開はいよいよ2023年12月15日(金)。
この物語は、1955年イリノイ州シカゴに暮らすアフリカ系アメリカ人のメイミー・ティル(ダニエル・デッドワイラー)と、⼀⼈息⼦で 14 歳のエメット・ティル=愛称ボボ(ジェイリン・ホール)の平穏な日々から始まる。夫が戦死して以来、空軍でただ一人の黒人女性職員として働いているが、母子は幸せな暮らしぶりだった。母は一人息子を溺愛していたせいか、エメット・ティルは天真爛漫に育っていわば怖いモノなしだった。その彼が初めて生まれ故郷を離れ、南部・ミシシッピ州マネーの親戚宅を訪れたことから悲劇は起こる。
奴隷制度の存続か否かで争われた「南北戦争」は、1865年北部の勝利によって終結し、奴隷制度は廃止されたが、保守的な南部の人種差別的な体質は、南北戦争後90年を経ても依然として変わることはなかった。南部各地では厳格な人種隔離と投票権の剥奪が進み、〝ジム・クロウ〟体制と呼ばれる白人至上主義支配下の黒人差別が確立されていたのだ。例えば、公共の場所での人種別の席区分、人種に基づく教育・住居の分離、人種隔離策の投票権の制限など、黒人は人間にあらず、という土地柄に、エメットは飛び込んでしまったのである。
エメットが飲⾷雑貨店で⽩⼈⼥性キャロリン(ヘイリー・ベネット)に向けて、お道化たように「⼝笛を吹いた」ことが⽩⼈の怒りを買い、1955年8⽉28⽇、エメットは⽩⼈集団にさらわれ、壮絶なリンチを受けた末に殺されて川に投げ捨てられる。我が⼦の変わり果てた姿と対⾯したメイミーは、この陰惨な事件を世に知らしめるため、常識では考えられないある⼤胆な⾏動を起こす。彼⼥の闘う姿は多くの⿊⼈たちに勇気を与え、⼀⼤センセーションとなって社会を動かす原動⼒となっていく――。
14 歳の⿊⼈少年エメット・ティルの犠牲と⺟メイミーの存在は、60年以上の時をかけてアメリカ社会に変⾰をもたらすことになる。1964年の〈公民権〉制定、今世紀に入って〈BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動〉へ展開され、2022年3月〈エメット・ティル反リンチ法〉が成立されるまで、実にエメットのリンチ殺害事件から67年の歳月が経っているのだ。これは、息⼦を愛する⼀⼈の⺟親の愛と正義の物語であり、同時に、⾃由と⼈権を求めて世界を変えた⼀⼈の⼈間の魂の実話である。
製作には⿊⼈俳優として世界的な⼈気を誇る『ゴースト』『天使にラヴ・ソングを』のウーピー・ゴールドバーグが出演も兼ね、『007』シリーズのスタッフら超⼀流陣が名を連ねている。主⼈公メイミー・ティルを演じたダニエル・デッドワイラーは、ゴッサム・インディペンデント映画賞、ナショナル・ボード・オブ・レビュー、サテライト賞など数々の映画賞で⼥優賞を総なめにした。この賞賛の嵐は映画祭のみならず、映画批評サイトRotten Tomatoesで批評家96%・観客97%の⾼スコアをたたき出している。
『ティル』
2023年12月15日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ ほか全国ロードショー
2022年/アメリカ/シネマスコープ/130分/PG12
配給:パルコ ユニバーサル映画