23.12.12 update

小津安二郎に傾倒したトルコ映画界注目のベキル・ビュルビュル監督『葬送のカーネーション』が訴えてくるもの

 奇しくも、2023年12月12日は、小津安二郎監督の120回目の生誕の日である。小津監督は、日本のみならず世界の映画関係者から敬愛されており、トルコのベキル・ビュルビュル監督もそのうちの一人である。日本に来てすぐに小津監督のお墓参りに行ったほどだ。「現代トルコの到達点」と世界各国でも注目を浴びるベキル監督が、長い間考えて来た「死と旅」というテーマについて描いた『葬送のカーネーション』が、2024年1月12日(金)から全国順次公開となる。2024年は、トルコ共和国建国100周年/日本トルコ国交樹立100年、トルコ・シリア大地震から1年になる。

 年老いたムサは、妻の亡骸とともにトルコのアナトリア地方を旅する。重い棺を引きずるように運ぶ祖父の後をついてくるのは孫娘のハリメ。妻の遺言は、故郷の地に埋めてくれというものだった。祖父の目指す地は、ハリメにとっては内戦で両親を失った辛い思い出が残る場所で、ハリメは仕方なく一緒に旅をする。二人に会話らしい会話はない。
 冬の寒々と荒涼とした地を、ヒッチハイクをしながら歩き続ける二人。遺体を入れた棺桶を携え、緊張した地域へと向かう二人には、想像も絶する困難に立ち向かわなければならないが、新たな出会いもあった。ヒッチハイクの途中で、乗せてもらったトラックの運転手やラジオから流れてくるDJの言葉に、ハリメもだんだんと心が解けてきて、祖父との関係もかわってくるのだった。
 さて二人は、無事に約束の地へたどり着くことができたのだろうか……。

©FilmCode

 ベキル・ビュルビュル監督は、自国に流入してきた難民が戦火の国に戻ろうとして、警察に捕まった新聞記事を読んでこの作品を思い立ったという。シリア、アフガニスタン、ロシア、ウクライナの難民が流入しているトルコと、その周辺国の混迷は現在も続いている。しかし、本作はどこか特定の国を設定してはいない。政治や社会の明確な説明を避け、祖父と少女、そしてトラックの運転手らの「人間の内面の旅路」を描き出した。
 同じ現代を生きていながら、想像もつかない日々を送っている人々がいることを忘れてはならない。人間の尊厳について改めて考えさせられる作品である。
 

 最後に、ヒッチハイクで二人が乗せてもらったトラックの女性運転手とラジオから流れて来たDJの言葉を記しておきたい。

──人生は短いのさ。気づいたら終わってしまうものだけれど、ただ穏やかでいることが大切なんだ。思想家のサイード・ヌルシーは〝死は終わりでなく、来世への入り口だ〟と言っているんだ。亡くなったあなたの両親も来世にいるってことなの──

──人生が無意味でも、 価値を見出して進み続けるべきなのだろうか。意味がないが、走り回って何かをしなければならないのが人間なのかもしれない──

『葬送のカーネーション』
2024年1月12日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、恵比寿ガーデンシネマ他にて全国順次公開
配給:ラビットハウス
公式サイト: https://cloves-carnations.com

映画は死なず

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