フランス映画『ラ・メゾン 小説家と娼婦』は、初めにお断りしておくが、「R18」である。しかも実話。原作のエマ・ベッケルは、1988年12月14日生まれ、本作が公開される時点では35歳の小説家である。自伝的小説『La Maison』を発表したのは2019年というから20代で2年間もの間、パリの有名な高級娼婦館に潜入取材を敢行、自ら娼婦として身をさらしながらその赤裸々な体験と秘められた世界を一冊にまとめたものだ。身分を隠す大胆な取材方法にはフランスでも賛否両論があったそうだが、16カ国で翻訳もされ大ベストセラーとなっている。娼婦たちに接し、アンダーグラウンドで生きる女性たちのリアルな姿を描き出した衝撃の実話が同名で完全映画化されたことに、女性たちの自由と性の解放を扇動する原作者の勇気に敬意を表すべきである。決して興味本位のポルノ映画ではないことを宣言しておきたい。
27歳の小説家エマの第3作目の構想は、高級娼館に身分を隠して取材することを決めていた。作家としての好奇心と野心もあったが、単に娼婦たちの〝売春〟行為を傍観するだけでなく、自らも男たちに身を投げ出した。危険な性癖の男、暴力と紙一重のセックス、女性の客との性…潜入した日常は危険と隣り合わせだった。娼婦としての顔と別物の素顔、孤独な生活、尽きない悩み…。しかし娼婦たちは決して男の奴隷にはならなかった。
当初の取材期間2週間のつもりが2年もの月日が流れていた。エマの体験から、女性が愛し合うことで性の快感を知り、女性が自分の身体のセクシャリティと欲望をコントロールする権利があることを訴えているようでもある。
監督:アニッサ・ボンヌフォン、1984年2月26日フランス、パリ出身。ドキュメンタリー映画『ワンダーボーイ』(19)で監督として長編第1作デビュー。『ラ・メゾン 小説家と娼婦』は、原作者からの強い希望で監督に抜擢され、圧倒的なリアリティで娼婦たちの世界を描いている。
主演:アナ・ジラルド、1988年8月1日フランス、パリ出身。俳優の両親のもとで3歳で子役として活動し、本格スクリーンデビュー作で主演を務めたのは、『消えたシモン・ヴェルネール』(10)で、「フランス映画界の新たな才能」としてカンヌ国際映画祭でその演技が高く評価された。
『ラ・メゾン 小説家と娼婦』
12月29日(金)新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
本作は“French Cinema Season in Japan”の一環として、ユニフランスの支援を受けて公開される。
(C)RADAR FILMS – REZO PRODUCTIONS – UMEDIA – CARL HIRSCHMANN – STELLA MARIS
PICTURES
配給:シンカ
公式HP:https://synca.jp/lamaison/