これはネオン職人の夫と妻の物語。腕利きのガラス管のネオン職人だった夫ビル(サイモン・ヤム)が亡くなって、所在無げな日々を送る妻メイヒョン(シルヴィア・チャン)。娘のチョイホン(セシリア・チョイ)は父の遺品をさっさと始末し、冷ややかな態度で母と遠のいている。メイヒョンは10年前に廃業していたはずのネオン工房の鍵が見つかったことから、弟子だった青年レオ(ヘニック・チャウ)と遭遇。レオは夫がやり残した最後のネオンがあることを告げ、メイヒョンは自分が完成させることを決心する…。
かつて〝100万ドルの夜景〟と謳われ彩ってきたネオンサインの職人たちは、2010年の建築法等改正とともに徐々に姿を消していった。同時に2020年までの10年間でネオンサインの9割が取り払われ、街はすっかり暗くなっていった。中国語題『燈火闌珊』(邦題:消えゆく燈火)で、昨年東京国際映画祭(TIFF)で上映された本作が、米アカデミー賞国際長編映画賞香港代表出品にあたって、英語題『A Light Never Goes Out』(光は消えない)と全く逆の表現とした。原題にこだわる意見もあったというが、「香港にネオンを再び灯そう」という声に押され、邦題も『燈火は消えず』と改められた。昨年のTIFFで鑑賞済みの映画通からも、改題を合点しているコメントが多く寄せられている。確かに、『燈火は消えず』にはロマンがある。タイトルから夫婦愛が感じられる。消えてゆく燈火を惜しむより、「もう一度香港を輝かせたい」という、今なお古き佳き時代のガラス管のネオンづくりに奮闘している職人たちの声なき声が聴こえてきそうだ。実在のネオン職人が登場するラストサプライズもあって興味をひいた。
言うまでもないが、現在ネオンサインの世界の主流はアクリル製でLEDによる光に変わり、寿命も長く低電圧で経済的になった。一方、ガラス製のネオン管には高度な職人の技が求められ激減の一途だという。しかし、エンタテインメントの世界やアーティストたちのネオン管への欲求も高まっているという。LEDでは表現できない温かみのある光を愛する人たちもいるのだ。20世紀初頭にヨーロッパで発明され、イギリス領の香港や上海租界に伝わってきたネオンサイン。
香港に独自の文化を創出してきたにもかかわらず、消えつつあるネオン職人たちへのオマージュでもある。
『燈火は消えず』
1月12日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開
配給:ムヴィオラ
公式サイト:https://moviola.jp/neonwakiezu
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