これまでベストセラー作家・吉田修一の原作は、実在の事件から発想した『悪人』『楽園』などがすでに映画化されているが、『湖の女たち』は、滋賀県の病院で起きた元看護助手の女性をめぐる冤罪事件から発案されたという。本書の執筆に当たって、大森立嗣監督ならどんな映画になるのか、考えながら進めたといい、2013年、吉田の原作による『さよなら渓谷』以来のタッグが実現した。
5月17日(金)公開のロードショー『湖の女たち』は、人間の深層心理を暴き、決して小気味いいとは言えず難解かもしれないが、見ごたえのある作品だ。
琵琶湖に近い介護養護施設で、人工呼吸器に繋がれた100歳の市島民男が不審な死を遂げる。異常があるとアラームが鳴る仕組みが施されており、機器の不具合の可能性は極めて低い。若手刑事の濱中圭介(福士蒼汰)と上司の伊佐美佑(浅野忠信)は殺人事件とにらみ、当直の介護士2人と看護師4人への事情聴取を始める。
濱中は妻の華子(北香那)が出産間近でありながら、濱中の威圧的な取り調べに脅える介護士の一人、豊田佳代(松本まりか)に歪んだ欲情を抱くようになる。介護士の松本郁子(財前直美)が怪しいと睨んだベテラン刑事の伊佐美と濱中は、長時間に及ぶ恫喝まがいの取り調べを続けるが、それが原因で郁子が交通事故を起こしてしまうと、取り調べの実態に対してマスコミが押し寄せる。湖畔の静かな地域が騒々しくなるのだった。
そこに、17年前にこの地域を揺るがしたMMO薬害事件を取材する週刊誌記者の池田由季(福地桃子)がやって来る。ベテラン刑事の伊佐美はかつてその事件の捜査をしていた。不審な死を遂げた市島は、太平洋戦争中の関東軍防疫給水部「731部隊」に所属し、MMO薬害事件との接点があったことが明らかになってゆく。記者の池田に亡くなった市島の妻・松江(三田佳子)は、終戦の前の年の冬に経験した生涯忘れえぬ出来事を語り出す…。捜査が難航する中、今度はもみじ園からも遠くない介護施設で、92歳の女性が市島と同じ状態で死亡する……。介護施設で起こった殺人事件を発端に、それぞれの人間がもつ〝謎〟が絡みあう濃密な作品だ。
凄みのかかったベテラン刑事の浅野忠信、物語に深みを持たせた、財前直美、三田佳子、そして、週刊誌記者の福地桃子など、それぞれ存在感ある演技に惹きこまれたキャスティングの妙に原作者の吉田も絶賛した。何といってもインモラルな関係に挑んだ福士蒼汰と松本まりかの熱演に引き込まれる。福士は、「役者人生におけるターニングポイントと呼べる作品になった」と言い、松本は「あの強烈な映画体験は、生涯この身体から離れることはない」と語っている。我ら現代人に、「この世界は美しいのか」と挑発し、止まることのない罪の連鎖と重さを問いかけてくる。
『湖の女たち』
2024年5月17(金) ロードショー
出演
福士蒼汰 松本まりか
福地桃子 近藤芳正 平田満 根岸季衣 菅原大吉
土屋希乃 北香那 大後寿々花 川面千晶 呉城久美 穂志もえか 奥野瑛太
吉岡睦雄 信太昌之 鈴木晋介 長尾卓磨 伊藤佳範 岡本智礼 泉拓磨 荒巻全紀
財前直見/三田佳子
浅野忠信
原作:吉田修一『湖の女たち』(新潮文庫刊) 監督・脚本:大森立嗣
配給:東京テアトル、ヨアケ
公式サイト:thewomeninthelakes.jp/
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