日本では1996年に上映され、ロングラン大ヒットを記録した『イル・ポスティーノ』。南イタリアの小島を舞台に、チリから亡命してきた高名な詩人・ネルーダと、口下手で素朴な郵便配達人・マリオとの友情を描いたものだ。その美しい風景と、哀愁に満ちた音楽も素晴らしく、忘れ難い名作だという方も多いことだろう。解像度の高い4Kデジタル映像により繊細かつダイナミックによみがえった。
初めて観る方のために、ざっと作品をご紹介すると……。
南イタリアの小さな島で漁師をする父と二人で暮らす青年・マリオは、亡命により島に暮らすことになったチリの高名な詩人・ネルーダの専属郵便配達人になる。ネルーダのもとには世界から手紙が届くが、島には文字が読めるのはマリオくらいしかいなかったからだ。はじめは緊張していたマリオだったが、サイン欲しさに買ったネルーダの詩集を読むうちに、愛情豊かで言葉の魔術をかけられたようなネルーダの詩の虜になり、自らの生き方や社会について考えるようになる。ネルーダも純真で人懐こいマリオに刺激され、二人の間に友情が芽生えていく。ある日港のバーで働くベアトリーチェに一目惚れしたマリオはネルーダの応援を得て新たな人生へと歩み出す。けれども突然、ネルーダの追放命令が解除され、祖国へ帰る日がやってくる。そして5年後ネルーダは、島を訪れるのだが──。
主人公の郵便配達人・マリオを演じたマッシモ・トロイージは、早くからイタリアで認められた監督・俳優の一人だ。チリの国民的詩人のパブロ・ネルーダ(1904~1973)を敬愛しており、ネルーダをモデルにした小説『バーニング・ペイシェンス』に感銘を受けたトロイージは、ネルーダが数年間イタリア南部の沖合の島で過ごしたという事実を基に、舞台を原作のチリからイタリアに移し、お互いに尊敬しあう仲のマイケル・ラドフォード監督と共同で脚色し、映画化を実現させたのである。
詩人のネルーダを演じたのは、『ニュー・シネマ・パラダイス』で、映写技師のアルフレードを演じたフィリップ・ノワレである。トロイージとノワレは、プライベートでも親しく、自然で心温まるシーンに魅了される。
マリオが一目惚れしたベアトリーチェを演じたマリア・グラツィア・クラノッタの美しいこと、マリオの結婚式での父のスピーチやベトリーチェの叔母の年頃の娘を想う気持ち、村で暮らす人々の温かな繋がりに加え、断崖とどこまでの広がる海の美しい景色も心に残る。
特筆すべきことは、トロイージは子供の頃から心臓が弱く、『イル・ポスティーノ』の撮影時には、手術が必要な状態だったが撮影を優先した。ネルーダを演じたノワレは、今にも倒れそうなトロイージを現場で励まし続けた。しかし、撮影終了後12時間後にトロイージは帰らぬ人となったのである。トロイージはアカデミー賞主演男優賞とアカデミー賞脚色賞にノミネート、アカデミー賞作品賞など5部門にノミネートされた。
奇しくも2024年はネルーダ生誕120年の年である。トロイージが命をかけた作品がデジタル版で蘇ったことは、二人への餞になるに違いない。
イル・ポスティーノ 4Kデジタル・リマスター版
11月8日(金)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
©R.T.I. S.p.A. – Rome, Italy, Licensed by Variety Distribution S.r.l – Rome, Italy, All Rights reserved.
製作30年 パブロ・ネルーダ生誕120周年
第68回米アカデミー賞作曲賞(ドラマ)受賞、5部門ノミネート(作品賞、主演男優賞、監督賞、脚色賞)
第49回英国アカデミー賞外国語映画賞、監督賞、作曲賞受賞
第20回日本アカデミー賞最優秀外国作品賞
監督:マイケル・ラドフォード
音楽:ルイス・エンリケス・バカロフ 原作:アントニオ・スカルメタ
出演:マッシモ・トロイージ、フィリップ・ノワレ、マリア・グラツィア・クチノッタ他
原題:Il Postino/ 1994年/イタリア・フランス/イタリア語、スペイン語/ビスタ/ステレオ2.0ch/ 109分/
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル
セテラ・インターナショナル創立35周年記念作品