『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2018年、チャン・フン監督)を観たときの震えが蘇った。衝撃的な実話にもとづく人間ドラマは韓国映画が世界を圧倒しているといって過言ではない。韓国の民主化の闘いを描いた光州事件という実話が題材の『タクシー運転手』しかりである。そして本作はアフリカ、ソマリアの内戦が激化した1991年、命の危険にさらされた外国人たちの生死を賭けた脱出劇である。悲しいかな30年余を経た今も、ウクライナに戦禍が繰り広げられている現下の世界情勢に思いを馳せる。
だが、本作は互いに国家の宿命を背負っている、韓国と北朝鮮の大使館員たちの脱出劇が両国の暗い歴史に埋められることなく陽の目を見たことに心から感動する。〝脱出劇の真実〟は公には語れなかったというのだから。国連加盟の外交ロビー工作でしのぎを削っていたソマリアに駐在する韓国大使とその家族、激しく敵対していた北朝鮮の大使たちが、こともあろうに助け合って激化する内戦の砲煙弾雨の中をくぐり抜けることになろうとは! まさに「国か、命か――」映画化まで30年近くの〝時〟が必要だったのだろう。
「独裁政府に協力した外国政府は出ていけ!」と、当時のソマリア、バレー政権を援助する国はすべて敵だと反乱軍は暴徒化する。戦場と化した首都・モガディシュ。大使館に石や火炎瓶が投げ込まれ通信手段も断たれる。ソマリアの武装警察に守られた韓国大使館に逃げ込む決意をする北朝鮮大使、「帰国したら粛清される」という声の中の決断だった。一方、韓国にとっても北を助けるなどあり得ないことだったが、彼らにも幼い子供たちがいた。前代未聞、韓国大使館内に北朝鮮大使館員とその家族が同じ屋根の下で夜を明かすのだった。しかし互いの警戒心と緊張感の中で声を潜めて退避しているだけでは、いずれ反乱軍に襲撃される。南だ北だと争っている場合ではない。「南北の全員が生きて脱出するぞ」と、戦場から生きて帰るために協力し合う途方もない脱出劇が展開される。
本作は2021年7月に韓国で公開されると、コロナ禍にもかかわらず観客が 押し寄せ、最終的には興行収入30億円を突破、2021年度の韓国映画№1の大ヒットとなった。その最大の話題作が7月、日本に上陸する。
『モガディシュ 脱出までの14日間』
7月1日(金)新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショー!
■監督:リュ・スンワン
■出演:キム・ユンソク、ホ・ジュノ、チョ・インソン、ク・ギョファン、キム・ソジン、チョン・マンシク
■提供:カルチュア・エンタテインメント
■配給:ツイン、 カルチュア・パブリッシャーズ
■公式HP:mogadishu-movie.com