1980年5月の光州事件を題材にした、ソン・ガンホ主演の『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2018)や、実際にあった大統領暗殺事件を、イ・ビョンホン主演で映画化した『KCIA 南山の部長たち』(2021)、1985年の軍事政権下の韓国で民主化を求め自宅軟禁された政治家と監視する諜報員の物語『偽りの隣人 ある諜報員の告白』(2020)など、自国の恥部とも言っていい実話を描いてきた韓国の、新たな政治映画に圧倒された。
最高権力の座を目指して、政治家と政治家が激突し、負ければ汚職や不正行為を問われ刑務所入りになることもある韓国の大統領選。本作は1960年代から70年代を舞台にした衝撃の選挙戦、渦巻く人間模様、二人の男の絆と決別が熱く描き出される。
主人公は、長きにわたる独裁政権の打倒を目指す政治家キム・ウンボムと、その理想に共鳴した影のブレーン、ソ・チャンデ。キム・ウンボムは4度の落選の後、世の中を変えたいという思いを共にする戦略家のソ・チャンデに出会う。ソ・チャンデは、ネガティブキャンペーンから詐欺まがいの賄賂工作まで、勝つためには手段を選ばない策士だ。彼の戦略によりキム・ウンボムは当選を重ねるようになり、遂には党を代表する大統領候補にまで上り詰める。しかし、大統領候補となったキム・ウンボムの自宅に爆弾投擲事件が起きるのだ。それが二人の別離につながる……。
キム・ウンボムを演じるのは、韓国を代表する演技派俳優のソル・ギョング。モデルとなった金大中をイメージして方言をマスターし、シーンに合わせて体重を増減させ、長い演説シーンでは、演説の声は聞こえないにも関わらず、演説文をすべて暗記したという。ソ・チャンデを演じたイ・ソンギュンは、記録映像などを参考にしながら監督と話し合い、やっていることは泥臭く汚い策略だが、スタイリッシュなソ・チャンデを作り上げていった。
キム・ウンボムのライバルや、側近、反対勢力の長期政権を狙う大統領など、韓国ドラマでよく見かけるベテラン俳優が脇を固める。
大統領選のエピソードの多くは、日本でもなじみ深い金大中(キム・デジュン)第15代韓国大統領と選挙参謀の厳昌録(オム・チャンノク)の実話がベースとなっている。「怖い」「まさか!」と思うようなシーンも多いが、単にその時代をなぞった政治映画ではなく、現在にも通じる「信念とは何か」を問いかけている。
『キングメーカー 大統領を作った男』
2022年8月12日(金)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
監督:ビョン・ソンヒョン『名もなき野良犬の輪舞』
出演:ソル・ギョング『茲山魚譜 チャサンオボ』 イ・ソンギュン『パラサイト 半地下の家族』 ユ・ジェミョン「梨泰院クラス」 チョ・ウジン『SEOBOK/ソボク』
配給:ツイン