『ローマの休日』のモチーフになったともいわれる、英国王女マーガレットとの世紀の恋で知られたピーター・タウンゼンド元空軍大佐。後に、ジャーナリストとなった彼が世界を回り取材を続ける中で、日本の長崎で出会ったのが谷口稜曄(スミテル)さんだった。16 歳で郵便配達中に被爆し、生涯をかけて核廃絶を世界に訴えた谷口さんを取材し、1984 年に1 冊のノンフィクション小説を出版する。本作『長崎の郵便配達』は、タウンゼンド氏の娘であり女優のイザベルさんが、2018 年の長崎で、父の著書とボイスメモを頼りにその足跡をたどり、父と谷口さんの想いを紐解いていくドキュメンタリー映画である。
本作の撮影のための資料を探す途中でイザベルさんが偶然見つけた貴重な写真が発表された。世界中が知る悲恋の後、タウンゼンド氏が約65年前の1958年に京都を取材で訪れたときの写真である。写真には、タウンゼンド氏が日本の京都でも多くのマスコミに囲まれる様子や、京都の旅館で畳の部屋で正座をし談笑する姿、平安神宮でドキュメンタリーの撮影クルーとリラックスする姿、愛用していたローライフレックスカメラを持ち歩き京都の市場でリンゴを買う姿、娘のイザベルさんが大好きだというバスで執筆をしている姿など貴重な様子が収められている。あまりにも有名な破局の後に日本を訪れていたのである。
撮影は主に、マーガレット王女と破局した後、タウンゼンド氏の伴侶でありイザベルさんの母となる約20歳年下のマリー=ルース・タウンゼンドさんが行っている。彼女との交際は、人気ドラマ「ザ・クラウン」にもエピソードとして登場し、世界的に報道された。
これらの写真を見つけた時にイザベルさんは、「本当に感動しました。私もこの映画の撮影のために、長崎へ向かうということが分かっていたので、二重に偶然だと感じ、感動したのを覚えています」
と奇跡的な偶然を、感慨深く話した。娘のイザベルさんもこれら写真をすごく気に入っているそうで、家族でのちに京都旅行に行った際、「この場所、あの写真に映ってたな」と写真を見つけた当時を振り返ったという。
「核兵器」という言葉がリアルに響く今この時代こそ、平和の願いを誰かに“配達”してほしい、という父から娘へのメッセージは、今、本作を通して私たちの元へ届く。心あたたまる珠玉のドキュメンタリー映画『長崎の郵便配達』にもう一つの奇跡のエピソードが添えられた。
『長崎の郵便配達』
8月5日(金) シネスイッチ銀座ほか全国公開
監督・撮影:川瀬美香
出演:イザベル・タウンゼンド、谷口稜曄、ピーター・タウンゼンド
配給:ロングライド
©The Postman from Nagasaki Film Partners