11月22日(火)、東京の〈新宿ピカデリー〉で、『ファミリア』完成披露記念上映会が開催された。この日、主演の役所広司、吉沢亮ら出演者の舞台挨拶があるせいか、会場の580席は若い女性でほぼ満席。さすが当代の名優と若手人気俳優が壇上に立つイベントである。そして成島出監督のほかは映画初出演、演技初挑戦の外国人キャストたち。それぞれ本作の撮影現場でのエピソードや感想を述べていたが、コロナ禍で撮影が大幅に狂わされ完成が危ぶまれただけに、完成披露を心から喜んでいるようだった。
さて、役所、吉沢は最後に、「楽しんでください」と挨拶を締めくくったが、いながききよたかのオリジナル脚本に惚れ込んだ成島監督は、「国際社会と日本、国籍、移民、差別、排斥、テロ、暴力…といった現代社会の諸問題を真正面から取り上げた」もので決して〝楽しん″で観られるものではない。2021年6月末現在、在留外国人の総数は280万人といわれているが、移民の人として扱われていないような苦境は知られていない。
本作の舞台は、日本で働き家を建て家族が幸福になることを目指して、実際に多くのブラジル人が移民してきた愛知県豊田市保見団地。窯業の家に生まれた脚本家のいながきが育った瀬戸市はまさに隣町である。
陶器職人の神谷誠治(役所広司)は妻を早くに亡くし、独り暮らし。一人息子の学は赴任先のアルジェリアで難民出身のナディアと結婚し、近い将来、誠治の仕事を継いで一緒に暮らしたいと考えている。そんな学の幸せを心から願う誠治に、ある日、衝撃のニュースが届く。やがて、親しくなった在日ブラジル人青年のマルコス(サガエルカス)は、同胞を守るために地元の半グレ集団と死闘を繰り広げてきたが、圧倒的な暴力の前に窮地に追い込まれる。若い頃はやんちゃな暴れん坊だった誠治、自らの命を犠牲にするほど思い切った行動に出るのだった。それぞれの事情に「家族」の存在がある。国籍や育った環境、話す言葉などさまざまな違いを超えて心を通わせる学とナディアと誠治、そしてマルコスらブラジル人の若者たち……。広い世界の中でめぐり逢ったことを奇跡と感じ、家族を作ろうとする彼らの思いは、どんな憎しみよりも強靭な無償の愛へと昇華し、殺伐としがちな現代に温かい希望の明かりをともしてくれる。リアルな今を生きる3人の関係を軸に、独自の視野から「家族」という普遍的なテーマを浮き彫りにした感動作である。
『ファミリア』は、2023年1月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開。
出演は、役所広司 吉沢亮 サガエルカス ワケドファジレ 中原丈雄 室井滋 アリまらい果 シマダアラン スミダグスタボ 松重豊 MIYAVI 佐藤浩市
監督:成島出 配給:キノフィルムズ