昨年70歳を迎えた水谷豊の舞台出演のニュースに新鮮な驚きを覚えた。と同時に、2000年に上演された水谷豊主演の舞台『陽のあたる教室』がよみがえってきた。劇場は今回と同じく世田谷パブリックシアターだった。水谷が演じたのは、映画でリチャード・ドレイファスが演じた音楽教師で、手話つきで、ジョン・レノンの「ビューティフル・ボーイ」を歌うという印象的なシーンがあった。1966年に14歳での初舞台は、山﨑努、岸田今日子、高橋昌也、小池朝雄、橋爪功ら、当時劇団「雲」の俳優たちとの共演だった。『陽のあたる教室』は2度目の舞台で、それ以来約23年ぶり、3度目の舞台出演が本作である。
その昔、大ヒットを放ったこともある兄弟グループ<ブラザー4(フォー)>だが、あっという間に表舞台から姿を消してしまう。ところが、4兄弟の昔の曲が、ひょんなことから令和の現代に再浮上し、4兄弟の存在も再び脚光を浴びることになる。それぞれの道を歩み、バラバラの人生を送ってきた兄弟たちは、果たして往年の歌声と絆で、再結成の日を迎えることができるのか。
この4兄弟のキャスティングが贅沢だ。長男に水谷豊、次男には『セールスマンの死』で本年度読売演劇大賞で最優秀男優賞に輝いた段田安則、三男には、舞台、テレビドラマに引っ張りだこで、そして初主演映画『向田理髪店』も話題の高橋克実、四男にはこれまた舞台、映像作品と八面六臂の活躍で、舞台『みんな我が子』、ドラマ「ファーストペンギン」の演技も記憶に新しい堤真一。4人が実年齢通りの並びで4兄弟を演じる。堤真一は、テレビのインタビュー番組で、中学生時代から憧れの人だった水谷豊と同じ舞台に立つことが信じられない、と語っていたが、段田、高橋にとっても同じ思いではなかろうか。
彼らのかつての熱狂的なファンを演じるのは、峯村リエと池谷のぶえ。この2人がそろって登場するだけでもワクワク、ニヤニヤである。さらに、さらに、兄弟グループのかつてのマネージャーを演じるのが、テレビドラマシリーズ「相棒」で久しぶりに水谷とバディを組んだ寺脇康文という、何とも粋な計らいのキャスティング。
脚本を手がけるのは、俳優、脚本、演出家として舞台と映像の両分野での幅広い活躍を見せ、現在も舞台『歌うシャイロック』で軽妙な演技で観客をわかせているマギー。そして、俳優、声優、脚本家、演出家、加えてダンス・カンパニー<コンドルズ>の旗揚げから参加し、コント部門の脚本も手がけ、NHK Eテレで放送中の「みいつけた!」のオフロスキー役が人気を集めている、マルチな才能の持ち主小林顕作が、本作の演出家として、シス・カンパニー公演に初参戦と、話題はつきない。
それにしても、古希を過ぎた水谷に、約四半世紀ぶりの舞台出演を決意させたものは何だったのだろうか。宣伝用写真の撮影時に「人生では最年長、舞台役者としては最年少。この先、舞台をやるかどうかは、この舞台にかかっています!」とコメントしているが、70代の水谷が舞台に意欲を燃やしていることは、演劇ファンにとっては嬉しいかぎりである。2度目の舞台の音楽教師役に続いての音楽がらみの役。そういえば、水谷自身の監督作である映画『太陽とボレロ』でも、水谷は指揮者を演じていた。本番の舞台で、<ブラザー4>がどんな曲を披露するのかも興味津々である。ムード歌謡なのか、ドゥーワップ系なのか、歌って踊るポップスなのか、できれば全部観てみたい。キャスト、脚本家、演出家、そしてこの舞台に関わるすべての人たちが、この芝居を楽しんで創っているに違いないと想像するだけでも顔がほころんでくる。この舞台の初日は春爛漫の4月1日である。
作:マギー 演出:小林顕作
出演:水谷豊 段田安則 高橋克実 堤真一
寺脇康文 池谷のぶえ 峯村リエ