歌昇は、4役を勤めるが、やはり『熊谷陣屋』の熊谷直実役を演ることは役者冥利につきると感無量の面持ち。敦盛の首実検の件での制札かついだ見得「制札の見得」で見せ場を作ってくれるだろう。
「1部、2部とフルメンバーでできることが本当に嬉しい」と語る巳之助も4役を勤めるが、「最近は『どんつく』のセットは亀戸天神のセットになっていますが、今回は浅草の街の大道具を造っていただきました。出演者勢揃いで踊って1部の打ち出しとなり、外に出ていただくとセットと同じ街並がご覧いただける次第です」と初春らしい華やかさを紹介する。
新悟もまた「すべての出演者が1部、2部に出て、3役、4役を演じる幸せを感じている」と言い、『魚屋宗五郎』のお浜役について、「松也の兄さんの宗五郎の思いを受け止めなければいけない役ということを意識して、また全員が出る演目でもあるので、いいかけあいで演じていければ」と抱負を語る。
浅草歌舞伎は可能性を引き出してくれる舞台という種之助は、第2部の『流星』では四人の雷一家の騒動を演じ分ける舞踊を一人で披露するが、いままでいろんな役を演じさせてもらったことが本役につながっていると、背筋を伸ばす。
4年ぶりの浅草の舞台で、1部、2部の最終演目には全員が出演するのが嬉しいと言う米吉も4役を演じるなかで、1部の幕開けの演目『本朝廿四孝』では八重垣姫を演じる。歌舞伎の〝三姫〟の一つに数えられる大役である。「これぞ歌舞伎という演目を先輩兄さんたちと創り上げていきたい」と身を乗り出す。赤姫は袖の使い方が難しいとされるが、八重垣姫らしさをいかに見せてくれるのかが楽しみである。
3役ともにすべて初役という隼人は、今回の舞台で『源氏店』の切られ与三郎を勤めることがかなったという。「仁左衛門(片岡)のおじさまのお役を演じさせていただくのだな」と笑みをみせながらも「落ちぶれた若旦那の哀愁を出せれば」と役に臨んでいる。
古典の大物ぞろいの演目ばかりで、身が引き締まると言う橋之助は、『本朝廿四孝』では武田勝頼を演じる。「八重垣姫や腰元濡衣が口説きたくなるような、そんな色気のある勝頼を演じたい」と。
初めて浅草歌舞伎に出演したときが16歳だったという莟玉は、今回『熊谷陣屋』で藤の方を演じられるのが幸せだと言う。「相模役の新悟兄さんと、いいコミュニケーションをとりながら演じていきたい」と、全員が浅草での初芝居に心を躍らせているようだった。また、新春浅草歌舞伎恒例の『お年玉<年始ご挨拶>』が4年ぶりに復活するのも楽しみである。
松也をはじめ7名を送り出すことになる橋之助は「前の世代の思いを橋渡ししてくださったお兄さん方の思いを受け取りつつ、私たちの世代に悔いなく託していただけるよう努めたい」との言葉を贈れば、松也は「私たちの前の世代の思いを受け取りながら、中心として初めて勤めさせていただいたそのときの思いである、浅草歌舞伎を途絶えさせないように発展させていくということを、次の世代にも、さらにその次の世代にもバトンをわたし続けてほしい」と、思いを託した。
『新春浅草歌舞伎』は、2024年1月2日、浅草公会堂にて幕を開ける。
出演:尾上松也 中村歌昇 坂東巳之助 坂東新悟 中村種之助 中村米吉 中村隼人 中村橋之助 中村莟玉/中村歌女之丞 市村橘太郎 中村吉之丞/中村歌六
〔演目〕
第1部(午前11時開演)
お年玉<年始ご挨拶>
・本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)十種香 一幕
・与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし) 源氏店 一幕
・神楽諷雲井曲毬(かぐらうたくもいのきょくまり)どんつく 常磐津連中
第2部(午後3時開演)
お年玉<年始ご挨拶>
・一谷嫩軍記 熊谷陣屋(くまがいじんや)一幕
・流星(りゅうせい)清元連中
・新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)二幕
〔公演日程〕2024年1月2日(火)~1月26日(金)※1月8日(月・祝)、19日(金)は休演
〔会場〕浅草公会堂
〔問〕チケットホン松竹0570-000-489または03-6745-0888(10:00~17:00)