24.04.26 update

中村勘九郎、七之助を中心に若手歌舞伎俳優たちが新宿・歌舞伎町の名前の由来でもある歌舞伎上演で、新宿に新風を巻き起こす 「歌舞伎町大歌舞伎」

 新宿では、1945年に空襲の被害を受けた後、戦災復興事業として劇場や映画館などの娯楽機能を集中させようという動きがあり、この地に歌舞伎の劇場の誘致を図っていたことから「歌舞伎町」が誕生した。歌舞伎の劇場建設は実現しなかったものの、56年には当時都内最大規模の劇場・新宿コマ劇場、座席数、広さとともに日本一を誇った映画館・新宿ミラノ座を擁する新宿東急文化会館(後の新宿 TOKYU MILANO)が開業し、エンタテインメントの中心地として発展してきた。2008年に新宿コマ劇場が、2014年には新宿 TOKYU MILANOが閉館したが、2023年に東急歌舞伎町タワーが開業した。歌舞伎町タワー内に新宿ミラノ座の名を継承するライブエンタテインメント施設としてオープンしたTHEATER MILANO-Zaが開業1周年を迎えた。そして、〝歌舞伎町に歌舞伎がやって来る!〟と、このたび歌舞伎の上演が決定した。

 今回の歌舞伎公演の中心となるのが中村勘九郎と中村七之助。父である十八世中村勘三郎の遺志を受け継ぎ、平成中村座や渋谷・コクーン歌舞伎を牽引しつつ、常に新たな挑戦を続ける2人に加えて、中村虎之介、中村勘太郎、中村長三郎、中村鶴松といったフレッシュでエネルギッシュな力が歌舞伎町に結集する。

 勘九郎は、猥雑な人間の欲や野望が渦巻く歌舞伎町で歌舞伎をやるのがあっていると言えば、七之助も歌舞伎町という町からパワーをもらえるような気がすると。さらに「コクーン歌舞伎では、古典の魅力再発見というコンセプトがありましたが、今回、コクーン歌舞伎を踏襲するのではなく、歌舞伎の本来の魅力というものを、歌舞伎座という特殊な場所でやっているそのものの芝居でぶつけてみようではないかと。同じ演目を巡業などで違う場所でやるのは、演者によっても芝居が変わるように、場所によっても作品の魅力が変わるのではないか」と、勘九郎は歌舞伎町での上演に期待を寄せる。

 演目は、舞踊『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』『流星(りゅうせい)』と、落語「貧乏神」を題材にした新作歌舞伎『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』。『正札附根元草摺』は、曽我五郎と舞鶴による荒事の趣向と華やかさを併せ持つ、古風でおおらかな味わいの舞踊。七之助は「お客様には、意外に新作と謳っている作品以上に、古典の作品が受けたりします。この荒々しい踊りは何なんだ、といった古典の良さを味わっていただける」と言う。『流星』は、牽牛と織姫が年に一度の逢瀬を楽しんでいるところに、雷夫婦が喧嘩を始めたと、流星が注進にやってくる。流星を演じる勘九郎が、夫婦の雷、子の雷、姑の雷と四人の雷一家の騒動を一人で踊り分ける軽妙洒脱な舞踊に、勘九郎、勘太郎、長三郎の父子共演も見もの。

『福叶神恋噺』は、上方落語の演目の一つである小佐田定雄の新作落語で、二代目桂枝雀らが演じた「貧乏神」を題材にした世話狂言の新作歌舞伎。落語の中でも、情というより、セリフの掛け合いなどのおかしみのある演目で、今回は、貧乏神を女性という設定にし七之助が演じる。小佐田は、勘九郎と七之助の主演で2016年に歌舞伎座で上演された笑福亭鶴瓶の新作落語「山名屋浦里」を原案とする新作歌舞伎『廓噺山名屋浦里』の脚本を手がけており、その際の演出も今回と同じく今井豊茂が手がけていた。やはり古典落語「星野屋」を小佐田が脚色し桂文珍が初演した新作落語を歌舞伎化した、2018年の『心中月夜星野屋』でも七之助は、九代目市川中車と共に主役を演じている。七之助は、落語的なオチを舞台にそのまま歌舞伎としてもっていくのは難しいと言いながらも、あくまで推測ながらと前置きしながら「今回は貧乏神が女性ということで、男と女の〝情〟という演出もありうるのでは」と、記者懇親会で言っていたが、果たしていかなる演出が施されているのか見ものだろう。大工の辰五郎を演じる虎之介とは、『天守物語』でも富姫と図書之介役で2か月間過ごした間柄で、〝あ・うん〟のキャッチボールを見せてくれるに違いない。

 歌舞伎町での歌舞伎上演に関して、七之助は「歌舞伎町での舞台をきっかけに、歌舞伎のホームである歌舞伎座や新橋演舞場にも足を運んでいただけるようになれば」と期待を寄せ、勘九郎は「ミラノ座という新しい場所に、歌舞伎の息吹を入れさせていただけるのは、嬉しいことで、歌舞伎の新たな魅力の可能性を探るいい機会になるのでは」と、意欲をみせていた。

歌舞伎町大歌舞伎
〔演目と配役〕
一、
正札附根本草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)長唄囃子連中
 曽我五郎時致 中村虎之介
 小林妹舞鶴 中村鶴松
流星(りゅうせい)清元連中
 流星 中村勘九郎
 牽牛 中村勘太郎
 織姫 中村長三郎
二、
落語「貧乏神」より
 小佐田定雄 脚本
 今井豊茂 脚本
 福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)一幕
   貧乏神おびん 中村七之助
   大工辰五郎  中村虎之介
   貧乏神すかんぴん 中村勘九郎

〔公演日程〕2024年5月3日(金・祝)~5月26日(日)
〔会場〕THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
〔問〕チケットホン松竹0570-000-489または03-6745-0888(10:00~17:00)

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