大切な人を失った悲しみが癒えず、苦しむさまを描く『What If If Only-もしも もしせめて』に挑むのは舞台初共演で、いずれもマンビィとも初めてだという大東駿介と浅野和之。愛する人を失い苦しむ〝某氏〟を大東が、〝未来〟と〝現在〟という抽象的な役どころを浅野が演じる。やはり心理学の専門家に〝悲しみの段階〟という講義を受けている。大東は、この戯曲を読み終えたとき、「出合えた!」と思ったと。難解なテーマかもしれないが、それくらい吸い込まれ、圧倒されたという。上演時間も約20分と短い話ながら、その中で描かれる某氏の哀しみ苦しみが、感覚的に大東の心の部分に入ってきたのだろう。浅野もまた、短い上演時間の中で、物語の〝核〟を理解しようとするより、感じていただければと。
演出家マンビィについて、「気づかないうちに凝り固まっている自分の発想を、国境や思考、あらゆる意味で境界線を飛び越え開かせてくれる演出家」と大東が言えば、浅野は「台本を分析する力が非常に強い演出家。解釈の仕方などを含めて、一つひとつのシーンを丁寧に重ねて創り上げていくような演出家」と。短いだけに密度の濃い、息をすることも忘れてしまうような20分間である。

キャリル・チャーチルはこれまで『A Number-数』と何かの作品とを合わせて二作品同時に上演することを許可していなかった。今回の公演に寄せる、作家の期待の大きさもうかがえるというものだ。まったく異なる二作品であるが、哀しみ、愛、喪失、後悔、そして何かを抱えて生きていくという人間の普遍的なテーマを描いているところでシンクロしていく。意味のある二作品連続上演である。
COCOON PRODUCTION 2024
DISCOVER WORLD THEATRE vol.14
『A Number-数』『What If If Only-もしも もしせめて』
作:キャリル・チャーチル
翻訳:広田敦郎
演出:ジョナサン・マンビィ
美術・衣裳:ポール・ウィルス
出演:『A Number-数』
堤真一、瀬戸康史
『What If If Only-もしも もしせめて』
大東駿介、浅野和之
ポピエルマレック健太朗・涌澤昊生(Wキャスト)

<東京公演>
〔公演日程〕9月10日(火)~9月29日(日)
〔会場〕世田谷パブリックシアター
〔問〕Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00)
<大阪公演>
〔公演日程〕10月4日(金)~10月7日(月)
〔会場〕森ノ宮ピロティホール
〔問〕キョードーインフォメーション0570-200-888(11:00~18:00 日祝休業)
<福岡公演>
〔公演日程〕10月12日(土)~10月14日(月・祝)
〔会場〕キャナルシティ劇場
〔問〕キョードーインフォメーション0570-200-888(11:00~18:00 日祝休業)
撮影:細野晋司