現在、東京・渋谷の東急シアターオーブにて、ミュージカル『プロデューサーズ』が上演中だが、とにかく楽しいミュージカルである。本作は、1968年の同名映画をもとに、2001年にメル・ブルックスが脚本・作詞・作曲を務め、ネイサン・レインとマシュー・ブロデリックの出演でブロードウェイで大ヒットとなったミュージカル。その年のトニー賞において史上最多の12部門で最優秀賞を受賞した。メル・ブルックスといえば、アカデミー賞、エミー賞、グラミー賞、トニー賞の4賞すべてを受賞したことがある、数少ない人物である。
その後、ロンドンのウエストエンド、カナダ、ドイツ、オーストラリア、韓国など世界各国で上演され、2005年には、東京厚生年金会館で、ボブ・アマラル、アンディ・テイラーのブロードウェイ・キャストによる来日公演が行われている。同年には、ブロードウェイ・オリジナル主要スタッフとオリジナル主演キャストによる映画も製作され大ヒットした。
日本語翻訳版は、2005年に井ノ原快彦と長野博のコンビにより青山劇場で初演され、2008年に東京国際フォーラムと、大阪のシアターBRAVA!で再演された。2008年には福田雄一演出版が東急シアターオーブにて上演され、井上芳雄と、吉沢亮・大野拓朗のWキャストのコンビにより上演された。
物語の舞台は1959年。かつてはブロードウェイでヒット作を飛ばしたが、今は落ち目のプロデューサー、マックス・ビアリストック。打ち出す芝居がことごとく不入りで破産寸前。彼のオフィスに会計事務所から会計士レオ・ブルームが派遣されることから、話はひょんな方向へ転がり始める。帳簿を調べていたレオは、成功した芝居よりも失敗した芝居のほうが利益を産むことに気づく。それを聞いたマックスは、計画的に芝居を失敗させて出資者から集めた資金をだまし取り、大儲けする詐欺の方法を思いつく。ブロードウェイのプロデューサーになるのが夢だったレオを丸め込んで一世一代の詐欺興行を打つべく、〝最悪の脚本家、最悪の俳優、最悪の演出家〟を探し始める。
今作でマックスを演じるのは本格ミュージカル初出演となるWEST.の濵田崇裕。気の弱い会計士でマックスに振り回されるレオを演じるのは、約9年ぶりのミュージカル出演となる、同じくWEST.の神山智洋。歌、ダンスの巧さに加え、二人の息の合ったコメディ・センスが抜群で、随所で見せ場を作ってくれる。さすが20年におよぶ付き合いだと納得させられるパートナーシップだ。「この二人だからこそ成立するということを感じた」と二人も声をそろえる。
また、初舞台、初ミュージカルで今作ヒロインである女優志望のウーラを演じるのは、近年は俳優としても注目を集めている王林。高い歌唱力に加え、舞台での姿が美しく、加えて面白い。ブロードウェイ版、ウエストエンド版、映画版にも俳優として出演しており、今作で演出を務めるジェームス・グレイは、王林を「すばらしく美しく、しかも面白い。これは大変珍しく、最高だ」と絶賛する。ウーラはスウェーデン人ということで、スウェーデン訛りの英語を話すというところも、テレビでも青森訛りで話している王林の質にはまった。
〝最悪の劇作家〟フランツ・リープキンを演じるのは『レ・ミゼラブル』『三銃士』『エリザベート』などの舞台のみならず、映像作品、さらには声優としても活躍中の岸祐二。〝最悪の演出家〟ロジャー・デ・ブリを演じるのは舞台、映像作品のいずれの作品でも印象的な演技で多くの支持を得ている新納慎也。今回も、ゲイのマイペースな演出家を嬉々として演じている。ロジャーのアシスタントでありカップルでもあるカルメン・ギアを演じるのは、『テニスの王子様』『GREASE』などのミュージカル舞台で、観客の熱い視線を浴びている神里優希。新納と神里の大胆で繊細な演技のかけあいは、巻き戻して観たくなるほど、笑いと歌と所作、そして美しさで圧巻の見せ場を作ってくれる。それに、神里のジャンプが美しい。さらに、投資家である裕福な老婦人の一人、ホールドミー・タッチミーには、多くのミュージカル作品をはじめとする舞台作品で国際的にも高い評価を得る島田歌穂と、舞台人としても変幻自在な演技センスを見せている友近がWキャストで演じる。息のあった見事なカンパニーである。