チラシに並ぶ、俳優たちの名前を見ただけで絶対観たいと思わされた。まずは、映像作品でも演技者として作品の要を務めながら、舞台でも多くの観客を惹きつけている吉田羊と大原櫻子。吉田は2021年の女性だけによる芝居『ジュリアス・シーザー』でブルータスを演じ、初のシェイクスピア劇という高い山を見事に登り切り、紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞している。また、大原櫻子は本年1月の舞台『ミネオラ・ツインズ』で、正反対の性格を持つ双子の姉妹を、なんとも刺激的に演じ、観客たちに、舞台女優としての大いなる可能性を植えつけてくれた。この2人が共演するのが、英国演劇界期待の若手劇作家ルーシー・カークウッド作の『ザ・ウェルキン』。
人々が75年ぶりに「天空」(タイトルは英語の古語で天空を意味する)に舞い戻ってくるという彗星を待ちわびる18世紀の英国の田舎町。少女サリーが殺人罪で絞首刑を宣告されるが、サリーは妊娠を主張。妊娠している罪人は死刑だけは免れることができるのだ。その真偽を判定するのは妊娠経験のある12人の女性陪審員たち。その中心に立ち、サリーに公正な扱いを受けさせようと心を砕く助産婦エリザベス(リジー)。凶暴さをむき出しにするサリーに対峙するリジーの言動が、この物語を牽引していく。吉田がリジーを、大原がサリーを演じるが、この2人の俳優としての対峙が面白さを予感させる。
そして、妊娠を主張するサリーにリジー同様向き合いながら、自分自身とも葛藤していく11人の女性たちにも、芝居に奥行と深みをみせてくれるに違いないベテラン勢から、芝居に新しい風を吹き込んでくれるであろう若手まですてきな俳優たちが揃った。個人的な興味で恐縮だが、本年度読売演劇大賞で杉村春子賞に輝いた那須凜が、どんな芝居を見せてくれるのかも楽しみである。昨年の舞台『ザ・ドクター』で、主演の大竹しのぶを相手に、その名の通り〝凜〟と演じた若手医師の役は印象的だった。さまざまな色彩と表情をもった女性たちの芝居が、法廷の審議室で展開される13人の女たちによる台詞のぶつかり合いにより、サスペンスフルな物語を、演劇的面白さとしてもさらにサスペンスフルに観客を物語へと引きずり込むはずだ。そして現在にも残る女性たちが受けてきた苦難の歴史を浮かび上がらせるのが、男性支配社会の象徴的な姿を映し出す役割を担う、芝居のスパイス的な存在となる、声の出演の段田安則はじめとする男優たちである。
今回演出を手がけるのは、18歳でイタリアに渡り、映像演出について学び、帰国後に20歳で「劇団た組」を立ち上げた気鋭の劇作家・演出家の加藤拓也。シス・カンパニー公演でも、『たむらさん』の作・演出、『友達』の上演台本・演出を務めている。映像でも古田新太が主演した連続ドラマ「俺のスカート、どこ行った?」の脚本や、斬新な着眼点と、台詞が話題になった吉田羊も出演していた連続ドラマ「きれいのくに」の脚本でも、ダークファンタジーをたっぷりと味わわせてくれた。今回が、初の翻訳戯曲への取り組みとなった。
原作、演出、俳優たちのスリリングなめぐり合わせによるこの芝居は、本邦初公演である。
作:ルーシー・カークウッド 翻訳:徐賀世子
演出:加藤拓也
出演:吉田羊 大原櫻子
長谷川稀世 梅沢昌代 那須佐代子 峯村リエ 明星真由美 那須凜
西尾まり 豊田エリー 土井ケイト 富山えり子 恒松祐里 神津優花 田村健太郎 土屋佑壱
(声の出演)段田安則
<東京公演>
〔公演日程〕7月7日(木)~7月31日(日)
〔会場〕Bunkamuraシアターコクーン
〔問〕Bunkamura チケットセンター03-3477-9999(10:00~17:00)
<大阪公演>
〔公演日程〕8月3日(水)~8月7日(日)
〔会場〕森ノ宮ピロティホール
〔問〕キョードーインフォメーション0570-200-888(11:00~16:00 日祝休業)
※小学生未満のお子様はご入場いただけません。