1963年(昭和38年)6月5日に「高校三年生」で鮮烈なデビューを飾り、一世を風靡した舟木一夫。60周年という長い芸能生活で、「こんなに歌が好きだったのか」と思ったのは、60代半ばだったという。舟木は現在も、同時代を生きた人々に向き合い、毎年、コンサート活動を続けている。テレビの歌謡番組に出る機会は少ないが、直に観客と触れ合うことができるコンサートに重きを置いているのが、歌手としての矜持なのだろう。
舟木のコンサートでは、誰もが口ずさめるヒット曲はもちろんのこと、「その人は昔」のような正味1時間を要する長編組曲のような楽曲も披露されれば、コンサートならではのいわゆるB面の曲も多数組み込まれている。実は舟木一夫を応援してきた人で、B面を支持する人たちは多い。「水色のひと」「夕月の乙女」「木挽哀歌」「はやぶさの歌」「たそがれの人」、ドラマ主題歌の「雨の中に消えて」や「あいつと私」、吉永小百合をはじめとする日活青春スターたちと共演した映画『花の恋人たち』のエンディング曲「北風のビギン」などなど。そういえば「銭形平次」も「敦盛哀歌」のB面だった。今回のコンサートでも、青春ソングから、ラブソング、叙情歌、時代物、そしてB面楽曲など、バラエティに富んだ曲目構成で、4プログラムすべてに通う熱心なファンも多いことだろう。
昨年の12月には、新橋演舞場で舟木一夫特別公演として『壬生義士伝』で1か月公演をうった舟木。その折のインタビューで、「60周年を一年間走り続けることができれば、80歳になっても現状を維持しつつ歌えるのかということが、そこのタイミングで初めて出てくるだろうと思う」と言っていた。そして「このハードルを越えたら次が見えるだろう、その次のハードルを越えたらさらに先が見えるだろう、というような見方になってきているような気がします」とも。60周年も大詰めを迎える今、舟木一夫には、その先に、どんな景色が見えているのだろうか。12月7日には、舟木一夫が歌手として世に出るきっかけとなった原点とも言える楽曲である松島アキラの「湖愁」をシングルリリースした。「僕を『高校三年生』に連れて行ってくれた歌であり、歌が好きな17歳のあのころに戻れる歌」との発言からも、「湖愁」が舟木一夫の歌手人生にとって大切な曲であることがわかる。カップリングは自作による代表作「浮世まかせ」の<60周年ライブヴァージョン>が収録されている。
また、取材では今年2月に亡くなった盟友西郷輝彦にもふれ、「テルさんが旅立ったことが、やはり今年一番きつい大きな出来事だった」と。西郷が、デビュー55周年のステージに立てなかった無念に思いをはせるとき、西郷の死によって、5月、6月くらいから、ステージに立つことへの心持が変わってきて、ステージに立つことのありがたさをはっきりと身にしみて感じるようになった気がすると言う。そして「僕が現役でいる以上、テルさんのことはこの先も過去にならないと思う」という盟友への想いは、どこか「テルさんの想いも背負って」というような、これからも歌い続けていく舟木の覚悟のような強い意思として伝わってきた。今回のコンサート中の12月12日に78歳を迎える舟木一夫。生涯現役歌手としての舟木一夫の旅路のクライマックスは、まだまだ先にある。
芸能生活60周年記念
舟木一夫 ロングコンサート in 新橋演舞場
〔公演日程〕12月10日(土)~12月21日(水)※13日(火)、17日(土)は休演
〔会場〕新橋演舞場
〔問〕チケットホン松竹(10:00~17:00)
℡.0570-000-489または03-6745-0888