23.08.24 update

第4回 『私をスキーに連れてって』に続く『彼女が水着にきがえたら』『波の数だけ抱きしめて』製作打ち明け話

1981年にフジテレビジョンに入社後、編成局映画部に配属され「ゴールデン洋画劇場」を担当することになった河井真也さん。そこから河井さんの映画人生が始まった。
『南極物語』での製作デスクを皮切りに、『私をスキーに連れてって』『Love Letter』『スワロウテイル』『リング』『らせん』『愛のむきだし』など多くの作品にプロデューサーとして携わり、劇場「シネスイッチ」を立ち上げ、『ニュー・シネマ・パラダイス』という大ヒット作品も誕生させた。
テレビ局社員として映画と格闘し、数々の〝夢〟と〝奇跡〟の瞬間も体験した河井さん。
この、連載は映画と人生を共にしたテレビ局社員の汗と涙、愛と夢が詰まった感動の一大青春巨編である。

 プロデューサー、そして映画にとってキャスティングは大事な要素である。

 ただ、何十本も映画のキャスティングをやってきて感じるのが〝絶対ベスト〟は無いということだ。台本の途中でキャストの話になることが多いが、最初のシナリオイメージ通りのメインキャストで撮影を始められたことは殆ど無い。ある時から「そういうものだ」と自分に言い聞かせ、その後は決まったキャストがベスト! と考えるようになった。これも何かの縁での出会いだと。
『私をスキーに連れてって』もそうだったし、今でもあのキャストで映画を誕生させられたことは幸せだった。
 ただ、『彼女が水着にきがえたら』で三上博史さんが、自己都合で参加できないことになった時は、正直ショックもあった。
 何となく、当初より『私をスキーに連れてって』の次は「海」がモチーフ。そして3作目は「車」とか……。企画を考えながら『私をスキーに連れてって』のコンビは3作共通で……と思っていたからだ。
 でも俳優としての彼と付き合っていると、確かにホイチョイムービーのテイストは彼の志向には合わない。と言っても『私スキ』における彼の存在感、貢献度は大きい。『私スキ』の翌年1月ドラマ「君の瞳をタイホする!」(フジテレビ/1988)に抜擢され、大人気となり『私スキ』から「君の瞳をタイホする」をミックスして〝トレンディ〟という言葉が生まれ、月曜9時のドラマは〝トレンディドラマ〟と呼ばれるようになり、ホイチョイ映画も〝トレンディ映画〟となった。


 殆ど取材を受けない馬場康夫監督の代わりに僕が雑誌「an・an」やら「POPEYE」に登場させられ、〝トレンディ〟を誌面で語ることになってしまった。本当はATG映画のようなことをやりたかった……等は、取材では語れなかった。実家(奈良)の父親からは珍しく便りがあり「カッコ悪いからやめた方が良い」のアドバイスもあった。
 ある意味では三上博史さんとは志向の近いところもあり、その後『スワロウテイル』(1996)の主演等をやってもらった。

『私をスキーに連れてって』に続くホイチョイ・プロダクションが第2弾として製作したのが、1989年6月10日に公開された海が舞台のマリン・リゾート・ムービー『彼女が水着にきがえたら』だ。ダイビングをはじめとするマリン・スポーツのディテールをふんだんに織り込み、余暇優先社会に生きる現代の若者たちのライフ・スタイルとピュアな恋愛模様が描かれ、多くの若者たちに支持された〝トレンディ映画〟である。主演コンビは、『私をスキ-に……』に続いて原田知世と、三上博史に代わり織田裕二が務めた。そしてこの映画を彩ったのが、前回のユーミンに代わり、サザンオールスターズのヒットナンバーの数々だった。クルーザー・パーティ、ヨット、原田知世が勤めるのはアパレル・メーカー、とバブル時代公開の映画がそこかしこから匂ってくる。アパレル・メーカーがオンワードと自在する企業名が使われているが、劇中で、俳優の小道具として使われたり、背景として実在の商品名や企業名が使われる、いわゆるプロダクト・プレイスメントという手法で、企業タイアップが多いのも、この映画の特徴だろう。水上バイクはKAWASAKI、主人公たちの車はトヨタ・ハイラックス・サーフや、トヨタ・セリカ コンバーチブル、ビールはバドワイザーという具合だ。劇中の出てくるヨットの名前は、ツバメ号とアマゾン号だが、これはイギリスの児童文学作家のアーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』シリーズへのオマージュに違いない。脚本は前作に続き一色伸幸が手がけている。伊藤かずえ、田中美佐子、竹内力、谷啓、伊武雅刀らも出演。

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.02
    『ヒットマン』のザヴィエ・ジャン監督の最新作『FA...

    応募〆切:5月13日(月)

  • 2024.05.02
    〝私をカンヌに連れてって〟くれたエドワード・ヤン監...

    文=河井真也

  • 2024.05.02
    人々はどうやって映画を愉しんできたのか、鎌倉市川喜...

    4月13日[土)~7月7日(日)

  • 2024.05.02
    山本リンダの「こまっちゃうナ」から「どうにもとまら...

    遠藤実のレコード会社を救ったヒット曲

  • 2024.05.01
    自分の街、がなくなった ─萩原 朔美   

    第13回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.01
    日本人デザイナーのパイオニアとして世界で活躍した髙...

    7月6日(土)~9月16日(月・祝)

  • 2024.04.30
    泉屋博古館東京 企画展「歌と物語の絵 ─雅やかな...

    応募〆切:5月27日(月)

  • 2024.04.26
    92歳の現代美術作家・三島喜美代の東京での初の個展...

    5月19日(日)~7月7日(日)

  • 2024.04.26
    中村勘九郎、七之助を中心に若手歌舞伎俳優たちが新宿...

    5月3日(金・祝)~26日(日)

  • 2024.04.26
    銀幕の大女優・浅丘ルリ子の159本の出演作の中から...

    5月13日(月)、14日(火)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!