23.08.24 update

第4回 『私をスキーに連れてって』に続く『彼女が水着にきがえたら』『波の数だけ抱きしめて』製作打ち明け話

 実は『波の数だけ抱きしめて』は原田知世&織田裕二の予定でシナリオ打ち合わせをやっていた。馬場監督はホイチョイ3部作は「原田知世」の3部作でもあると。
 ところが、『私スキ』→『彼女が水着』の時と同じようにキャスティングの番狂わせは、また起こるのである。
 今度は映画のスケジュールと原田知世さんのコンサートのブッキングされた日程が合わなかった。原田さんはこの頃から本格的に歌手活動をしていることはわかっていたが、8月公開の映画で撮影を予定していた春にコンサートが既に決まってしまっていた。コンサートは、ずらせない。勿論、本人は出演希望だったが、どうしてもスケジュール調整が出来なかった。
 これは監督ではなくプロデューサーの責任である。他の映画なら撮影をずらす方法も考えたが、夏休み公開の映画、しかも海での撮影は必須だ。しかも東宝の年間の映画パンフレットには公開日も記されている。「邦画系」のブッキングは、前年には公開日も決定し(今の演劇もそうだが)これを変更するのは大変な事だった。原田知世さん本人には了承してもらったが、とても申し訳なかった。

 ホイチョイムービー3部作のラストは夏休み公開で、ヒットすることが各所から求められていた。
 原田知世に代わる映画女優はいないと思った。『彼女が水着』の時のようなオーディションの猶予も無い。内外からは色々言われることは覚悟のうえで、中山美穂にお願いした。
 結果は3部作で最もヒットした。共演の俳優陣にも恵まれた。

▲『私をスキーに……』『彼女が水着に……』に続くホイチョイ・ムービー3部作の完結篇として作られたのが、1991年8月31日に公開された『波の数だけ抱きしめて』。82年の湘南を舞台に、学生生活最後の夏を本格的なFM局設立にかける5人の男女の恋の行方を描いている。映画には、実際に90年に湘南で開催されたイベントの放送局<サーフ90エフエム>と同じ周波数76.3MHzが使用されている。織田裕二は続投で、ヒロインは原田知世に代わり中山美穂が務めた。陽に焼けた健康的なミポリンの姿が、鮮やかに焼き付いている。別所哲也、松下由樹、阪田マサノブ、勝村政信らが共演。本作も一色伸幸が脚本を手がけている。音楽は再びユーミンが担当し「真冬のサーファー」をはじめとするユーミン・サウンドが気分を盛り上げてくれる。主人公の役名は、前作『彼女が水着に……』の原田知世が演じたヒロイン名・田中真理子が引き継がれている。82年が舞台ということで、アイビー、サーファー、ハマトラといった80年代全盛の若者たちのファッションが、公開時に観て懐かしいと目を細めた人たちも多かったに違いない。Tシャツ(写真左)も作られ、都会的なイラストが若者たちに人気だった。今見直してみると「みんな若かったな」というつぶやきと共に、帰らない青春の夏がよみがえり、胸がキュンとしめつけられる。作り手にとっても当時の若者にとっても、青春を語る1本に違いない。

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.09.20
    六本木ヒルズの巨大な蜘蛛の作者の個展【ルイーズ・ブ...

    9月25日(水)~1月19日(日)

  • 2024.09.19
    リリースから45年経っても色あせることのない、松本...

    竹内まりや「SEPTEMBER」

  • 2024.09.18
    虎ノ門ヒルズで芸術の秋を楽しむイベント 10月5日...

    秋の草花や個性的な雑貨の店が出店!

  • 2024.09.17
    懐かしい昭和時代が浮かんでくる、昔ながらの理髪店の...

    9月20日(金)全国順次公開

  • 2024.09.17
    生誕100年、時代の先端をとらえ続けた表現者の全貌...

    10月12日(土)~12月8日(日)

  • 2024.09.17
    コーダの青年になった吉沢亮の名演技に泣く、耳のきこ...

    9月20日(金)全国公開

  • 2024.09.13
    アメリカ合衆国、内戦勃発!再び起こり得る〈南北戦争...

    10月4日(金)全国公開

  • 2024.09.13
    国立西洋美術館「モネ 睡蓮のとき 」観賞券

    応募〆切:10月10日(木)

  • 2024.09.12
    堤真一&瀬戸康史、大東駿介&浅野和之という2組によ...

    公演:東京、大阪、福岡

  • 2024.09.12
    谷村新司、堀内孝雄、元モーニング娘の安倍なつみ、や...

    水越恵子「Too far away」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!