23.10.26 update

第6回 薬師丸ひろ子&真田広之 共演『病院へ行こう』は、入院体験から誕生した映画

1981年にフジテレビジョンに入社後、編成局映画部に配属され「ゴールデン洋画劇場」を担当することになった河井真也さん。そこから河井さんの映画人生が始まった。
『南極物語』での製作デスクを皮切りに、『私をスキーに連れてって』『Love Letter』『スワロウテイル』『リング』『らせん』『愛のむきだし』など多くの作品にプロデューサーとして携わり、劇場「シネスイッチ」を立ち上げ、『ニュー・シネマ・パラダイス』という大ヒット作品も誕生させた。
テレビ局社員として映画と格闘し、数々の〝夢〟と〝奇跡〟の瞬間も体験した河井さん。
この、連載は映画と人生を共にしたテレビ局社員の汗と涙、愛と夢が詰まった感動の一大青春巨編である。

▲筆者の悪性腫瘍で入院した際の体験が原案となり製作された1990年公開の映画『病院へ行こう』。監督は『木村家の人びと』の滝田洋二郎、脚本は『私をスキーに連れてって』をはじめとする〝ホイチョイ3部作〟の一色伸幸が手がけている。間男した男と、された男がもみあい階段から転落し同じ大学病院に入院。2人の担当医は、点滴の針も刺せないような新人研修医。この3人をメインに、大学病院での医師と患者たち、そこに関わる人々の人間模様を描いたコメディで、研修医を薬師丸ひろ子、間男されたとされる男を真田広之、間男したとされる男を大地康雄というキャスティング。また、入院中に筆者が出会ったユニークな(?)患者たちを、ベンガル、荒井注、嶋田久作、螢雪次朗ら、一癖も二癖もある俳優たちが演じ、物語をわかせてくれる。医療現場や病院を舞台に、さまざまな映画やドラマが作られているが、入院患者の視点から描かれているところが、この作品の見どころだろう。デビューして間もない豊川悦司が研修医役で出演していた。

 『私をスキーに連れてって』(1987/11月公開)も上手く行き、シネスイッチ銀座の最初の日本映画『木村家の人びと』(1988/5月公開)も好スタートをきれた。しかも評価も高くモントリオール映画祭にも招待されることに。僕は、日本と香港(ゴールデンハーベスト社)との合作映画『孔雀王』(1988/12月公開)の製作で香港へ行き来していた。
 「何か上手く行き過ぎる……」
 予感は的中。病気や入院などの経験も無く、28年間生きてこられたが、当時の新宿区河田町のフジテレビの隣にあった東京女子医科大学病院整形外科でレントゲン、CT を撮ったところから波乱は始まった。ちょっとした打撲で、足(膝)が痛いと感じただけなのに、僕より若い研修医が、レントゲン写真を見ながら「ここに影が……」と。
 ドラマとかでよく見る光景で、「その辺りですか……?」と訊くと「怪しいですね……」千葉県立がんセンターから東京女子医大に来ていた研修医が、偶然、怪しい影を発見した、いや、してくれたのだ。勤務時間中に、隣の病院に、ちょっと寄っただけのはずが、その後、数年間に渡り、がん患者になった。妻と2人の子持ちの29歳だった。
 「悪性線維肉腫」の判断が出るまで数ヶ月。大変珍しいガンのため、各大学病院(東京女子医大系列)での判断も分かれた。「放っておいて様子見」から「明日にでも左足切断!」まで様々。
 整形外科医が一生で一度、このガンに出会えるかわからない!? とのことで興奮気味の医者もいた。僕はあまりの疑心暗鬼で、小学校のクラスメイトで当時東大病院の内科医だった幼なじみに、入院中の東京女子医大にまで来てもらった。
 五人の医者(大学)が全くバラバラの診断見解。「手術を決めるのはアナタ(患者)!」と。
こんなことがあるのか? と訊いたら「ある」とのことで、これで精神的にはホッとした。
 「ガン(悪性肉腫)」かどうかはわからない? という医者の見解に不信を持ったこともあったが、徐々に、これも時の運、と思うようになった。まあ、珍しい骨肉腫で、「10年~20年前なら半分位死んだかなあ……」「まあ、今は抗がん剤があるから上手く当たれば! 何とかなるかな」と千葉県立がんセンターの外科部長に言われた時は、思わず笑ってしまった。抗がん剤に当たりハズレがあるのか……アイスキャンディの棒の「当たり!」「ハズレ!」が思い浮かんだ。

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映画は死なず

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