23.10.26 update

第6回 薬師丸ひろ子&真田広之 共演『病院へ行こう』は、入院体験から誕生した映画

 公立病院なので今度は個室にした。東京女子医大の数分の1の(差額)部屋代だった。この入院は、最初から『パート2』の企画作成を期待されていた。女優さんらにも応援? されながら。
 ここに入院すると対外的にも「がんです!」とオープンに告知が出来て、気持ちは楽だった。
 入院した当日の夜だったか、中学生らしき女の子がやってきた。光GENJIのファンで、今でもコンサートでの共演を夢見ていると。骨肉腫なので、片足は無くなるのだが。彼女の中にとても強い<希望>を感じた。
 一方で、東京女子医大で最初の入院から面倒を診てくれていた千葉がんセンターの高田部長(大学病院では教授にあたる)が退職されることになった。「今まで医者は患者を治すことが第一義だったのだが、ガンだけはどうにもならない。治らない人をどうするか考えてみる」
 退職金を使い、千葉市内に民間個人としては、日本初のホスピスを併設した整形外科医院を設立、開業した。これにはリスペクトや驚きとともに、失礼ながら映画のネタ? としても最高だと感じた。
 ストーリーとしては、時間としての生命は決まってしまっているが、ホスピスで、夢を諦めないで希望に生きる女性を主人公にした。
 これをコメディにするのは大変だった。最初から近々死ぬことがわかっている主人公。しかも舞台はホスピス。これが脚本の一色伸幸さんのワザと滝田洋二郎監督のウデで、ちゃんとコメディ映画になっていく。
 退院して最初に会いに行ったのは、ヒロイン役の小泉今日子さんだった。初対面だったが、自分が書いたストーリー(プロット)を目の前で読んでもらい、説明し、快く引き受けてもらった。モデルは千葉がんセンターで最初に会った光GENJIファンの少女だ。
 それと『私をスキーに連れてって』以来の三上博史さん。そして1作目に引き続き、真田広之さんにも出演してもらった。
 実は千葉県立がんセンター入院の前に考えていたストーリーは、看護士(当時は看護婦)さんを主人公にした企画だった。『病院へ行こう』に出演してもらった薬師丸ひろ子さんと『波の数だけ抱きしめて』の松下由樹さんには「入院したら新作ストーリーを……」と言った記憶がある。
 コメディタッチで書き始めたものの、看護士さんたちへ、自分がさんざん迷惑をかけた過去を振り返ると、なかなか笑えるストーリーにならなかった。
 だが『病は気から 病院へ行こう2』は着々と進んでいった。
 小泉今日子さんたちにも自分が入院していた千葉がんセンターの病棟にも来てもらい、若い患者の皆を励ましてもらった。主治医でもあった元外科部長が設立した、千葉市高根町整形外科病院(ホスピス併設)にも行ってもらい、ロケハン? も兼ねて皆を慰労してもらった。
 不思議な巡り合わせで、がんセンターの病棟仲間で骨肉腫の高校生だった及川君は何とか生き抜いてアメリカへ行き、車椅子バスケのオリンピック選手となり、僕もシドニーパラリンピック(2000年)に応援に行った。そこで取材に来ていた井上雄彦さんと出会い、それがヒントにもなり『リアル』という車椅子バスケの漫画が誕生。今も連載中である。その後、及川晋平さんは東京パラリンピックで、監督として日本チームに初の銀メダルをもたらした。
 キョンキョンが励ましてくれた当時の高校生の患者は、その後医学部へ行き、現在は慶應大学病院の整形外科医師で、僕の担当医でもある。同じ手術を経験している入院仲間でもある。

▲滝田洋二郎監督&一色伸幸脚本のコンビで作られた1992年公開の『病は気から 病院へ行こう 2』。ここでは、末期ガンを宣告されホスピスで余生を送る患者と、そこに携わる医療関係者の姿を描きながら、治療を目的としないホスピス病棟のありようを問いかけているが、前作『病院へ行こう』同様、コメディ映画である。今や確固たる俳優としての地位を築いている、主役を演じる小泉今日子、三上博史、真田広之らの演技は、あの若さだからこそ魅力的に映る表情や、芝居といったものが、キャリアに培われた芝居をしのぐことがあるということを見せてくれている。もちろんキャリアを積み重ねた柄本明、木野花、ベンガルたちの達者な芝居もコメディ映画ならではのツボを押さえている。『病院へ行こう』と合わせて、2作続けて見直してみたい。

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