24.01.24 update

第9回 岩井俊二監督劇場長編映画第1作『Love Letter』で、中山美穂は多数の女優賞に輝いた

『スワロウテイル』を実現化する為、戦略変更&方向転換をした。
 幸いにフジテレビ社内にはすでに〝岩井シンパ〟が存在していた。映像企画部(ビデオ部)なら、昔で言う〝Vシネ〟が制作出来る。そして腕試しではないが、編成枠で、ゴールデンタイムで視聴率を獲れる2Hドラマを制作出来たら。

 僕のプロデュース作品でなくとも『スワロウテイル』に繋がることを願っていた。言い方を変えれば<岩井俊二>そのものをプロデュースして、評価が高まったところで『スワロウテイル』の実現化を目指すというような。

 ビデオ作品として『Undo』(1994/45分)と『Picnic』(1994/公開は1996/72分)が作られた。『Undo』には既に岩井俊二シンパとも言うべき豊川悦司&山口智子が主演してくれた。一方『Picnic』は『スワロウテイル』の布石ともなるCharaと浅野忠信が主演してくれた。ここでCharaは試されたとも言える。

 世間にも岩井シンパが現れていて、ビデオストレート予定だった『Undo』はシネスイッチ銀座で限定レイトショー公開をやり大盛況となった。後に『Picnic』も劇場公開になる。

 最初のハードルは「Love Letter」の2時間ドラマでの制作だった。色んな見解があるが、自分の理解では編成サイドからの「視聴率が獲れそうにない」だった。決めるのは優秀な編成部だ。自分でもそう感じてはいた。主演の女優の件など他にも問題はあったが、やはり15%以上の数字の壁は厚かったのだろう。

 テレビドラマとしての「Love Letter」が無くなり、ちょっと計画が狂った。

 強引だとも思ったが、ここで引くわけにも行かず『Love Letter』の映画化を試みることにした。当然、会社としては後ろ向きだった。決定的にNOになったのは、僕が中山美穂を主演にして進めようとした時だった。
 この問題も個人としては理解が出来たが、若気の至り? もあり、突っ走る道を選んだ。フジテレビ及びポニーキャニオンからの出資はゼロ。しかも中山美穂の事務所の社長は大反対。今、考えると先方の言うことの筋は通っている。遡ること3年前の『波の数だけ抱きしめて』(1991)に主演してもらい、興収20億円前後のヒット作になった。月9ドラマを中心に彼女は20%の視聴率ドラマの主演の常連だった。ちょうど「世界中の誰よりきっと」(1994)の歌が大ヒットしている頃だ。
 事務所の社長からは「河井さんがやるならメジャーでヒット出来る映画に出演させて下さいよ」。これは御尤もで、逆の立場なら僕も同意見だったかもしれない。当時、社長も、中山美穂も岩井俊二の存在は知らなかった。まだ長編映画のデビューもしていなかったのだ。マネージャーは前向きで応援してくれ、中山美穂本人も前向きだった。

▲『Love Letter』は、1999年には韓国と台湾でも公開され人気を博した。韓国では、日本映画、ドラマ、歌などすべてが禁止されている状態だったが、金大中大統領になり、98年10月に日本の大衆文化の流入制限を段階的に開放し始め、最初は3大国際映画祭のグランプリ作品である『影武者』『うなぎ』『HANA-BI』が上映されたが2週間で打ち切りになりヒットしなかった。その後、国際映画祭でいずれかの賞を獲得した作品に幅が拡げられ、モントリオール世界映画祭で観客賞を受賞していた『Love Letter』もその枠に入り、公開が決まった。日本ではWOWOWで放送済だったため、韓国では多くの大学生たちがそれをダビングしたビデオを回し合って観ていたという。公開時には筆者も岩井俊二監督と共に何度も韓国にいき、大学で講演した際に、7割くらいの学生がWOWOWダビングコピーで観ていたことを知り驚いたという。それでも公開するとソウルを中心に大ヒットし、韓国で初めてヒットした日本映画とされている。25年以上経った今でも、実写の日本映画の興行記録は破られていない。公開後はどこへ行っても「お元気ですか」と声をかけられたという。「お元気ですか」というセリフは、韓国で流行語になった。撮影地の小樽にも200万人以上の韓国人が〝聖地巡礼〟に訪れたという。その波は、中国、アジアへと拡がっていった。

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.14
    阿木燿子作詞、宇崎竜童作曲の名曲を得て、自身初とな...

    ミュージシャンという肩書が似合うようになった

  • 2024.05.14
    全米の映画賞を席巻した話題作『ホールドオーバーズ ...

    応募〆切:6月5日(水)

  • 2024.05.14
    『あぶない刑事』の舘ひろし&柴田恭兵、70歳超コン...

    5月24日(金)公開

  • 2024.05.10
    背中トントン懐かしい ─萩原 朔美   

    第14回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.10
    練馬区立美術館「三島喜美代─未来への記憶」展 観賞...

    応募〆切:5月31日(金)

  • 2024.05.10
    <特集>帰ってきた日本文化の粋 ─ 今、時代劇が熱...

    文=米谷紳之介

  • 2024.05.09
    吉田修一原作×大森立嗣監督が『湖の女たち』で再びタ...

    5月17日(金)全国公開

  • 2024.05.09
    東宝映画『ゴジラ』のヒロインに抜擢され、その後俳優...

    東宝から俳優座へ。

  • 2024.05.09
    松田聖子、田原俊彦らアイドル全盛期の昭和56年、西...

    アイドル全盛期のスター

  • 2024.05.09
    92歳の大村崑、映画『お終活 再春!人生ラプソディ...

    5月31日(金)全国公開

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!