25.07.01 update

第26回【私を映画に連れてって!】中島らもさんの小説『お父さんのバックドロップ』の映画化をめぐる予測不能な出来事

 それからも、中島らもさんのことがまだ気になっていたのだろうか。らもさんの『永遠(とわ)も半ばを過ぎて』を読んで、何とか映画にしたいと思った。今度は無事に原作の映画化権も許諾され、テレビドラマも御一緒した中原俊監督とやれることになった。

 当時は『スワロウテイル』(1996)、『リング』(1998)はじめ、20代の観客を中心に映画を創ることが多かった。この『永遠も半ばを過ぎて』も同様に考えたのか、タイトルが硬すぎる感じがした。今、この歳で考えるととても良いタイトルなのだが、当時は、ストーリーにある3人の男女の嘘つき詐欺話のニュアンスを出したかった。「嘘」=「Lie」、3人だから『Lie lie Lie(ライ・ライ・ライ)』(1997)か。真ん中を小文字にしたのは女性の鈴木保奈美さんを意識したのか……。自分で決めたタイトルだが、英語にしたことも含めて余計、わかりにくくしてしまった気がする。主題歌に、まだデビューしたてのBONNIE PINKを起用し、鈴木保奈美、佐藤浩市、豊川悦司の主演で、今、観ても面白い映画である。残念ながらヒットしなかったのはひとえにプロデューサーのせいであろう。

 それから何年かして李闘士男監督と知り合い、彼が『お父さんのバックドロップ』の映画化に並々ならぬ意欲があることを知り、2004年に無事、映画化された。

 ただ、公開の3か月前に中島らもさんは逝ってしまった。

 出会いや、すれ違い……。映画は人の人生を描くことが多いが、映画を創ること自体も人生の一コマであるのだろう。

▲1997年10月に公開された映画『Lie lie Lie(ライ・ライ・ライ)』。不眠症の電算写植オペレーターの佐藤浩市、佐藤の高校時代の同級生で詐欺師の豊川悦司、2人の詐欺話を見破り強引に仲間入りする編集者の鈴木保奈美を主演に、軽妙で上質なエンタテインメントに仕上がっている。佐藤が睡眠薬を飲んで夢遊状態で写植した文章を〝幽霊が書いた本〟として出版社に売り込むという奇想天外な詐欺物語だが、キュートでしたたかな鈴木保奈美、大阪弁でしゃべりまくる豊川悦司、豊川とは対極の愚直な佇まいの佐藤浩市という主役3人の個性が大きな魅力となっている。公開から30年近く経った現在でも、色褪せることのないすてきなセンスのコメディ映画。本田博太郎、中村梅雀、麿赤兒、松村達雄、三條美紀らも出演。BONNIE PINKが歌う主題歌「Lie lie Lie」と、エンディング曲「たとえばの話」もセンス抜群。






かわい しんや
1981年慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビジョンに入社。『南極物語』で製作デスク。『チ・ン・ピ・ラ』などで製作補。1987年、『私をスキーに連れてって』でプロデューサーデビューし、ホイチョイムービー3部作をプロデュースする。1987年12月に邦画と洋画を交互に公開する劇場「シネスイッチ銀座」を設立する。『木村家の人びと』(1988)をスタートに7本の邦画の製作と『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)などの単館ヒット作を送り出す。また、自らの入院体験談を映画化した『病院へ行こう』(1990)『病は気から〜病院へ行こう2』(1992)を製作。岩井俊二監督の長編デビュー映画『Love Letter』(1995)から『スワロウテイル』(1996)などをプロデュースする。『リング』『らせん』(1998)などのメジャー作品から、カンヌ国際映画祭コンペティション監督賞を受賞したエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)、短編プロジェクトの『Jam Films』(2002)シリーズをはじめ、数多くの映画を手がける。他に、ベルリン映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』(2009)、ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』(2009)、などがある。2002年より「函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞」の審査員。2012年「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」長編部門審査委員長、2018年より「AIYFF アジア国際青少年映画祭」(韓国・中国・日本)の審査員、芸術監督などを務めている。また、武蔵野美術大学造形構想学部映像学科で客員教授を務めている。


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