23.11.27 update

第7回 待望の大林宣彦監督との初仕事に挑んだ『水の旅人 侍KIDS』公開までのスリリングな日々、そして『タスマニア物語』のこと

 日曜の朝、家で朝日新聞をいつものように別刷り(日曜版)から読もうとすると、そこにセピア色に映ったタスマニアタイガーの大きな写真。犬? 狼? と思ったが、読んでみるとタスマニア島のタスマニアタイガーが何故、絶滅したか……の記事。その時タスマニア島の存在は知らず、アフリカかな……程度の知識だった。
 読んでみると、日本の商社などが森林伐採をやりすぎて、生息場所を失い、絶滅したのではないか……と現地の人は推測している、というような記事だった。
 その日の午後だったか、娘の小学校の文化祭に参加すると、テーマが「オゾン層の破壊から地球を守ろう!」という凄い標語があった。見てみると「オゾン層の破壊が激しいオーストラリアでは世界で最も皮膚がんが多い……」ということだった。小学生が、こんなことまで考えているのか……との驚きがあった。
 映画『タスマニア物語』(1990)は、この二つの事を体験したことから生まれたのである。翌月曜日だったか、この記事を書いた朝日新聞の記者にアポを取り、会いに行った。そして速攻で、ストーリーを書く(でっち上げる?)。「自責の念に駆られた商社マンが、最終的には自らがタスマニアタイガーを発見する……」という内容。この間、数日だが、〝大作〟を作って〝ヒット〟を狙うのには時間が無さすぎる。オーストラリアでの撮影が、日本の冬から春だとすれば、南半球は逆なので夏の撮影になる。7月の公開は何があっても動かない。色々、企画は考えたいところだが、時間切れ(そもそも時間切れからスタートしたようなものだが)で上司に提出。
 タスマニアの位置を知る人もほとんど居なかったが、皆、考える時間を持てないので、「これで行こう!」と。シナリオもないが、大作?? なので6~8億円位の製作費がOKになった。『私をスキーに連れてって』の1億円の捻出は大変なハードルがあったが、さすが〝国民映画〟製作はあっさり決定した。

▲1990年公開の映画『タスマニア物語』。メガホンを取ったのは、高倉健主演の多くの作品で知られる降旗康男監督で、脚本はテレビドラマ「前略おふくろ様」「茜さんのお弁当」「池中玄太80キロ」「向田邦子新春ドラマスペシャル」などの脚本に関わり、向田邦子賞も受賞している金子成人さんが手がけている。25億円を超える配給収入は、90年邦画配収では2位の成績で、多くの観客を劇場に呼び込んだ。田中邦衛、薬師丸ひろ子、根津甚八、緒形直人らに加え、小林桂樹、加藤治子、富司純子らベテラン俳優たちも出演している。

 

 監督は降旗康男さん。これは僕のリクエストではなく、〝大作〟映画の監督として相応しい人かと。脚本の金子成人さんともお会いし、企画の説明などを行なうが、そもそも確固たる自信を持って臨めるべくもなく、脚本家には大変な苦労をさせてしまった。降旗監督も、それまでやって来られた映画とは全くテイストが違う作品。現場を仕切ってくれたフィルムフェイス(『あ・うん』等制作)の方にも、申し訳ない気もした。
 それでも、シナリオ制作~ロケハン~タスマニアでの撮影~仕上げ、と否応なく時間は進む。東京現像所のゼロ号試写で観た直後、僕は〝暴言〟を吐いたらしい。〝らしい〟というのは自分が憶えてないからだ。クライマックスの「タスマニアタイガーだ!」と発見するシーンで愕然としたことは憶えている。今ならCGがあるのでクッキリ創れるのだが、当時の技術ではなかなか上手くいかず、そこにはボケボケのタイガーしかいなかった。試写室が明るくなり、僕が降旗監督にむかって「ダメでしょう! 作り直しましょう!」というようなことを言ったらしい。物理的な時間的な問題も含めて〝暴言〟になったようである。
 僕の腹は決まり、映画の内容にはあまり触れず、ひたすらウォンバットやカンガルーといった動物映画のようにファミリーにアピールした。テレビスポットも28パターン作った。久石譲さんの音楽だけは素晴らしかったが、宣伝のため、藤井フミヤさんのイメージソングも突如加えて15秒スポットを作った。あらゆる自社媒体宣伝と動員戦略により、予想に反して配収25億円(興行収入だと40数億円後半)を越えるヒットになった。

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映画は死なず

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